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生後半年未満のアトピー性皮膚炎、発症予兆を皮脂RNAから検出-成育医療センターほか

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2023年04月13日 AM11:01

90人の乳児から肌を傷つけずに顔皮脂を経時的に採取、皮脂RNAを解析

国立成育医療研究センターは4月12日、乳幼児アトピー性皮膚炎(AD)の予兆を生後1か月の乳児の皮脂RNAに検出したことを発表した。この研究は、同センターアレルギーセンターの大矢幸弘センター長、山本貴和子室長らの研究グループが花王株式会社生物科学研究所を共同で行ったもの。研究成果は、「Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

乳幼児の肌には、AD、脂漏性湿疹、接触性皮膚炎、新生児ざ瘡などさまざまな湿疹が見られる。その中で、乳幼児期早期に発症する早期発症型ADは、アレルギーマーチに関連することが知られており、早期発見と早期の治療介入が重要だ。しかし、医師がADと診断するには、かゆみの確認やAD以外の湿疹との見極めが重要なポイントで、確定診断までに観察期間が長くなる傾向があること、そもそも確定診断が難しいという課題が存在している。そのため、ADの早期発見、診断を可能にする客観的な指標の開発が求められている。

花王はこれまでに、あぶらとりフィルムを用いて、肌を傷つけることなく皮脂を採取し、皮脂中のRNAを網羅的に解析する技術(皮脂RNAモニタリング)を確立。また、乳幼児において、顔の湿疹の状態により炎症や角化(表皮のターンオーバー)関連の遺伝子発現が変化すること、生後6か月から5歳のADの子どもにおいてはADに特徴的な分子変化を捉えられる可能性を見出している。

そこで、同センターと花王は、アトピー性皮膚炎の早期発見を目指すため、同センターで2020年に出生した乳児に、生後1か月から6か月まで経時的に医師による皮膚観察と顔からの皮脂採取を行い、皮脂RNA解析ができた乳児90人を対象として研究を実施した。

生後1か月時点で発症していた乳児の皮脂RNAに、ADに特徴的な変化を確認

生後1か月時点でADを発症していた乳児(以下、AD乳児)11人、生後6か月まで肌トラブルのない健常児6人について、5,457種のRNA発現量を比較したところ、AD乳児では免疫応答(炎症)に関わる分子の発現が高く、皮膚バリアに関わる分子の発現が低いという、ADに特徴的なRNA変化が確認された。これは、生後6か月から5歳までの健常児とADの子どもを対象とした皮脂RNA解析と同様の結果を示しており、ADに特徴的なRNA変化があるという結果の再現性が生後1か月時でも確認された。このことから、同技術を用いることで、低月齢の乳児においても負担をかけずにADの状態を客観的に知ることができることが明らかになった。

生後2か月でAD診断のざ瘡乳児、発症1か月前からADに近い皮脂RNAの特徴を有する

生まれて間もない乳児にはさまざまな皮膚疾患が見られる。中でも、活発な皮脂分泌による新生児ざ瘡は多発する傾向にあり、今回の研究においても健常児を除いた湿疹を有する乳児の45%(84人中38人)が生後1か月時点でざ瘡を発症していた。そこで、健常児、AD乳児、ざ瘡乳児、その他湿疹を有する乳児それぞれの皮脂RNA発現情報を用いた主成分分析を行い、皮脂RNAプロファイルの特徴を確認した。

その結果、生後1か月ざ瘡乳児は、健常児に近い皮脂RNAプロファイルを有する場合と、AD患児に近いRNAプロファイルを有する場合、どちらも存在することが明らかとなった。さらに、生後2か月の肌状態を追跡した結果、生後2か月でADと診断されたざ瘡乳児は、ADを発症しなかった乳児に比べ、生後1か月時点ですでにAD乳児に近い皮脂RNAプロファイルを有していることがわかった。

ADに進展するざ瘡、AD診断前から皮膚バリア機能関連分子群の発現が有意に低い

AD に進展する、もしくは進展しないざ瘡乳児の間にどのような特徴の違いがあるのかを明らかにするために、生後2か月でのざ瘡乳児の生後1か月時の皮脂RNAプロファイルの特徴を解析した。ADの発症にはバリア機能の低下が深く関与していることから、皮膚バリア機能に関連する遺伝子群(角化・脂質)を選抜し、GSVA(Gene Set Variation Analysis)解析を行った。

その結果、生後2か月でADと診断されたざ瘡乳児は、そうでない乳児と比較して、生後1か月時点の皮膚バリア機能関連分子群の発現レベルが有意に低く、ADと類似するパターンを示していた。この結果より、ADに進展するざ瘡(ニキビ)については、ADの診断がなされる前から皮膚バリア機能に関連する分子群の発現が減少していることが示された。すなわち、皮脂RNA情報を用いることで、AD発症の予兆を検出できる可能性があると考えられる。

低月齢の乳幼児における早期発症型AD予備群の発見に有益となる成果

今回の研究で、食物アレルギーなどのアレルギーマーチの発症リスクが高いとされている早期発症型ADに特徴的なRNA発現変化が明らかになった。さらに、乳児期に多発する新生児ざ瘡からADに進展する可能性が高い乳児を早期に発見できる可能性も示した。皮脂RNAモニタリング技術は、肌の機能が未熟な低月齢の乳幼児において、痛みや侵襲を伴わず身体に負担をかけることなく、早期発症型AD予備群を見つける有益な技術になると考えられる。研究グループは今後も「皮脂中RNAの発現パターン解析によるAD診断のための医療機器の研究開発」を推進し、乳幼児アレルギーゼロ社会の実現に向け、AD早期発見につながる診断技術の開発を進めていく、としている。

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