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遺伝学的に未診断の神経筋疾患を6例確定診断、新解析法構築で-横浜市大

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2022年10月28日 AM11:15

リピート伸長病の診断、従来の方法では反復塩基配列の正確な解析が困難

横浜市立大学は10月27日、ナノポアシーケンサーを用いて、特定の塩基配列の繰り返し(リピート配列)が正常範囲を超えて異常に伸長することで引き起こされる疾患群である、リピート伸長病の原因となる病的なリピート伸長変異を網羅的に検出する手法を開発したと発表した。この研究は、同大附属病院遺伝子診療科の宮武聡子准教授、大学院医学研究科遺伝学の輿水江里子特任助教、藤田京志助教、松本直通教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「npj Genomic Medicine」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

リピート伸長病は、遺伝子内の縦列反復配列(タンデムリピート)の異常伸長変異を原因とする疾患群で、代表的な疾患として脊髄小脳変性症やハンチントン病などが知られる。疾患群の多くは、ショートタンデムリピートと呼ばれる、多くは3から6塩基の反復ユニット配列が、正常多型の範囲を超えて伸長することが原因となる。現在60種類程度の疾患関連リピート伸長配列が発見されているが、その多くは神経筋疾患の原因になることがわかっている。

近年、さまざまな遺伝性神経筋疾患に対して、根本治療につながる治療法が開発されつつある。このような治療法を選択・提供するためには、正確な遺伝子診断が不可欠なため、精度の高い診断法のニーズが高まっている。しかしリピート伸長配列は、配列の特性上、従来のPCR法を主体とするゲノム解析法が困難だった。とりわけ従来法では、候補となる疾患に特化した解析しかできない(1疾患解析)ため、リピート伸長病を疑って遺伝子検査を行う場合、原因となる遺伝子領域ごとに解析法を最適化し、複数の手法を組み合わせて診断する必要があり、解析に時間を要し非効率だった。また、PCR抵抗性で病的なリピート伸長を正確に特定できない場合もあり、診断法に限界もあった。

ロングリードシーケンス技術によりリピート伸長配列の全長解読が可能に

近年開発されたロングリードシーケンス技術は、PCR法では解析が困難なリピート伸長配列を含むゲノム領域を一続きの配列として解読でき、リピートを構成する塩基配列の決定に優れている。従来法では、病的なリピート伸長の部分的な配列しか捉えることができなかった遺伝子領域でも、この技術を用いることで、リピート伸長配列の全長解読が可能となった。

59の原因遺伝子領域を選択的にシーケンスし、迅速に発見する解析法と診断フローチャートを構築

今回の研究では、GridIONシーケンサー(オックスフォード・ナノポアテクノロジーズ社)に搭載された、アダプティブサンプリングという新しい技術を用いた。この方法は、ターゲットとする遺伝子領域のDNA断片を該当するかどうかリアルタイムに判断し、ターゲット領域だけを効率的にシーケンスする技術である。この方法により、患者のDNAをシーケンサーに投入すると、リピート病の原因となることが知られている59箇所の遺伝子領域だけ選択的にシーケンスが可能になる。

リピート配列はその長さに個人差が大きく、正常リピート長と病的リピート長の線引きが容易でないことと、正常範囲を明らかに超えて伸長していた場合でも、その中に含まれている配列によっては病原性を持たないこともあるため、検出したリピート伸長配列が病的であるかどうかの判断は難しい場合がある。そこで今回の研究では、得られたロングリードシーケンスデータに含まれている59遺伝子領域のリピート配列のなかで、疾患を引き起こす可能性のある配列をランキングすることで、原因を迅速に発見する解析パイプラインと診断フローチャートを構築した。

従来法で診断がついていなかった10症例のうち6例で遺伝学的に確定診断

まず、従来法で病的リピート伸長配列を有することが確定していた神経筋疾患12症例(陽性コントロール)について、ロングリードシーケンスを行い、構築したパイプラインで解析を行った結果、すべての患者の疾患原因リピート伸長が検出できた。次に、臨床的に脊髄小脳変性症と診断され、遺伝学的診断がついていなかった10症例に対して、このターゲットロングリードシーケンス(T-LRS)解析を行った。また、比較のため従来法の遺伝子検査も同時並行で行い、結果を突き合わせた。その結果、T-LRS法では7症例で正常の範囲を逸脱するリピート伸長を検出し(CACNA1A遺伝子に2症例、BEAN1遺伝子に2症例、ATXN8OS/ATXN8遺伝子に1症例、RFC1遺伝子に2症例)、そのうち6例では確実に発症をきたすと判断できる病的リピート伸長であり、遺伝学的に確定診断が可能だった。この中で1症例は、従来法ではリピート配列のわずかな伸長を検出することが難しく、原因不明と判定されていたが、T-LRS法により脊髄小脳変性症6型と診断できた。

既知の全リピート伸長疾患の遺伝子領域を4日以内で網羅的に解析

今回開発したT-LRS法は、およそ4日以内で既知の全リピート伸長疾患の遺伝子領域における網羅的解析が可能であり、原因を疑う遺伝子領域を1か所ごとに解析する従来法(1疾患解析)と比較して、迅速性と正確性において優れていると考えられる。また、今回の研究で開発した診断フローチャートを用いることで、ロングリードシーケンスで得られたデータから容易に原因を見つけることが可能になる。

今回の研究により、T-LRS法はリピート伸長病において、正確かつ効率的な解析方法であることが明らかになった。病的なリピート伸長の中には、伸長するリピート配列の塩基パターンが、遺伝的不安定性や疾患の予後や経過に影響を及ぼす因子となることが報告されている。今回の解析から得られるデータは、診断のみならず、患者の予後予想等についての判断材料としても有用な情報となることが考えられる。「今後、T-LRS法による網羅的迅速診断システムが、リピート病の遺伝子診断や医学的管理に大きく寄与することが期待される」と、研究グループは述べている。

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