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骨粗鬆症の新規治療薬候補となる超分子ポリマーを開発、作用機序も解明-東京医歯大

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2022年08月09日 AM09:50

骨粗鬆症治療、ビスフォスフォネート系薬剤は顎骨壊死が問題

東京医科歯科大学は8月4日、超分子ポリロタキサンを用いた新たな破骨細胞分化の抑制方法を確立したと発表した。この研究は、同大生体材料工学研究所有機生体材料学分野の田村篤志准教授、由井伸彦教授、医歯学総合研究科顎顔面外科学分野の朱虹霏大学院生、依田哲也教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Biomaterials Science」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

破骨細胞による過剰な骨吸収により骨量が低下する骨粗鬆症において、高コレステロール血漿と骨質が関連することやコレステロールの生合成阻害によって骨密度が増加することが臨床的に明らかになっていた。骨粗鬆症の治療にはさまざまな薬剤が使用されているが、ビスフォスフォネート系薬剤(ファルネシルピロリン酸合成酵素阻害剤)などコレステロールの生合成を阻害する薬剤が有効であり、破骨細胞分化にコレステロールは密接にかかわっていると考えられている。さらに、近年、細胞内のコレステロールが破骨細胞分化を制御する核内受容体ERRα(estrogen-related receptor α)の内因性リガンドとして機能することが報告され、破骨細胞分化にコレステロールが必須であることが明らかになっている。しかし、ビスフォスフォネート系薬剤は顎骨壊死を引き起こすことが口腔外科領域で問題視されており、新規作用機序の骨粗鬆症治療薬の開発が期待されている。

今回、研究グループは、破骨細胞分化の過程で生じるコレステロールの蓄積に対し、コレステロールに直接作用する2-ヒドロキシプロピルβ-CD(HP-β-CD)、ならびにβ-CD含有酸分解性ポリロタキサン(PRX)を用いてコレステロール蓄積を低減できれば、破骨細胞分化が抑制されると考え、検証を行った。

細胞内のコレステロール量に応じて破骨細胞の分化促進を確認

破骨細胞は、前駆体であるマクロファージがRANKL(receptor activator of nuclear factor κB ligand)によって刺激されることで融合し、分化する。研究グループは、マクロファージ内のコレステロール量と破骨細胞分化の程度の相関性を検証するため、/β-CD包接化合物を用いて、RAW264.7細胞(マウス由来マクロファージ様細胞)内のコレステロール量を人為的に増加させ破骨細胞分化への影響を調べた。結果、RANKLを作用させることにより細胞内のコレステロール量は増加し、RANKLとともにコレステロール/β-CD包接化合物を添加することにより細胞内コレステロール量はさらに増加した。この時、破骨細胞分化を司る転写因子であるNfatc1(nuclear factor of activated T cells cytoplasmic 1)の相対遺伝子発現はコレステロール量に応じて増加するとともに、TRAP(tartrate-resistant acid phosphatase)染色で評価した破骨細胞面積もコレステロール量に応じて増大した。この結果より、細胞内のコレステロール量に応じて破骨細胞分化が促進されると考えられたという。

β-CDを超分子化したポリロタキサン(PRX)を開発、細胞内コレステロール低減に有効

研究グループは次に、細胞内のコレステロールを直接低下させることで、破骨細胞の分化が抑制されると考え、細胞中のコレステロールを低下させるために一般的に使用される2-ヒドロキシプロピルβ-CD(HP-β-CD)と研究グループが独自に開発した酸分解性ポリロタキサン(PRX)を用いて検証を実施。HP-β-CDは、細胞内にコレステロールの蓄積が生じるニーマンピック病C型、動脈硬化症、糖尿病性腎障などに対し、コレステロールの排泄を促進させ、治療効果を示すことが知られている。一方、PRXは細胞内のリソソームでβ-CDが放出されるように設計された超分子構造ポリマーで、細胞毒性が回避されるとともに、細胞内のコレステロールを低減させる作用がHP-β-CDよりも優れることをこれまでの研究で明らかにしている。RANKLによって生じるコレステロールの蓄積に対する作用を評価した結果、PRXを作用させることでコレステロールの蓄積が低減されることが明らかになった。一方で、同じ濃度でHP-β-CDを作用させてもコレステロール量は変化しなかったことより、PRXの形態で作用させることが細胞内コレステロール量の低減に有効であることが示唆された。

PRXは細胞内コレステロール蓄積を低減させることで破骨細胞分化を効果的に抑制

さらに、破骨細胞への分化をTRAP染色、アクチンリングの形成、骨吸収窩の形成より評価。その結果、PRXを作用させることで、TRAP染色面積、アクチンリング数、骨吸収窩面積が低下した。また、PRXは破骨細胞分化の指標であるNfatc1等の遺伝子発現量も有意に低下させた。一方で、HP-β-CDを作用させた細胞では破骨細胞分化効率に変化は認められなかった。以上の結果より、PRXは細胞内コレステロール蓄積を低減させることで破骨細胞への分化を効果的に抑制することが明らかになった。

骨粗鬆症治療への応用に期待

破骨細胞分化にコレステロールが必須であることはコレステロールの生合成を阻害することで明らかにされていたが、細胞内のコレステロールを直接低減させることで分化が抑制されるかについては未解明だった。今回の研究では、研究グループが独自に開発した超分子構造ポリマーであるPRXを用いることで、コレステロール量を直接低減させることで破骨細胞の分化が抑制されることを明らかにした。

「細胞内の過剰なコレステロールを低減させることが可能なPRXは新たな作用機序の骨粗鬆症治療薬としての応用が期待される。さらに、PRXはβ-CDの細胞毒性を回避する構造的な特徴を有していることから、骨粗鬆症治療に伴う副作用も低減されると考えられ、今後の研究展開が期待される」と、研究グループは述べている。

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