医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 自家骨髄間質細胞製品、脳梗塞・重度麻痺への脳内移植医師主導治験で安全性確認-北大

自家骨髄間質細胞製品、脳梗塞・重度麻痺への脳内移植医師主導治験で安全性確認-北大

読了時間:約 2分12秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年08月10日 AM10:45

BMSC製品HUNS001の安全性・有効性を検証

北海道大学病院は8月6日、脳梗塞により重度の麻痺が生じた患者に対して、患者自身の骨髄から製造した自家骨髄間質細胞(Bone Marrow Stromal Cell:BMSC)製品(HUNS001)を脳内に移植する医師主導治験を実施した結果を発表した。この研究は、同大病院脳神経外科の藤村幹教授らの研究グループによるもの。

脳卒中の大部分を占める脳梗塞は、日本で1年間に約30万人が新規に発症し、その多くが死亡もしくは麻痺等の後遺症を残すとされ、2025年には520万人の要介護者が推定されている。患者は自身の身体的管理、就業、生活の質(QOL)などに大きなハンディキャップを抱える一方、麻痺を直接的に回復させることができる有効な治療法はない。

脳卒中の治療が困難な原因の一つとして、「傷害された脳組織を再生させる治療法」が確立していないことが挙げられる。そのため現在の治療は、「障害を可能な限り軽度でとどめる治療法」「リハビリによる機能回復」が主体だ。しかし、脳卒中の大半を占める脳梗塞では、血管閉塞を生じてから脳神経組織が傷害されるまでの時間(Therapeutic time window)が非常に短く、またリハビリの効果も限定的であるなど、治療効果は満足できる状況ではないのが現状だ。

このような状況の中で、近年の研究の進歩により、「いったん傷害された脳神経組織を再生させる治療法」つまり再生医療が可能となりつつある。実現に向けて、今回の研究では患者にHUNS001を投与し、安全性と有効性を検証した。

脳梗塞発症後14日時点で重症麻痺を有する患者7人対象、重篤な合併症を認めず

北海道大学では2001年より自家BMSCを用いた基礎研究を進めてきた。そして、2017年より国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)再生医療実用化研究事業の支援のもと、第1相医師主導治験「脳梗塞急性期患者を対象とした自家BMSC脳内投与による再生治療の安全性及び有効性を検討する第I相試験」(RAINBOW研究)(研究開発代表者:寳金清博総長)を開始し、2021年4月に全て終了した。

対象は、脳梗塞発症後14日の時点で重症の麻痺を有する患者7人。患者から採取した骨髄細胞を北海道大学病院の細胞プロセッシング室で培養・加工することでHUNS001を製造し、発症約2か月後に手術によって脳梗塞周囲に投与。その後、それぞれの患者は1年後まで安全性および有効性のチェックを受けた。

安全性に関しては、1年間の観察期間中に重篤な合併症を認めなかった。また、今回は対照群(細胞を投与しない患者グループ)が存在しない試験デザインのため、有効性を厳密に検証することはできないが、自力での歩行が回復するなど一定の有効性が推定されたという。さらに、投与したHUNS001が脳内の損傷部位へ移動することや、脳梗塞周辺の神経細胞が活性化していることなどが、画像検査で明らかになった。

今後、大規模な臨床試験の実施を予定

今回の治験では、有効な治療法がなかった重度の麻痺を有する脳梗塞患者に対して、HUNS001の脳内投与が安全に行えることと、有効性が推定できることを確認した。同治療法を患者のもとへ届けるために、北海道大学発ベンチャーである株式会社RAINBOWを設立。同治療法が社会に広まることで、脳梗塞患者のQOL向上に大きく貢献できる可能性がある。

なお、今回の試験は対象者が少数で対照群も置いていないため、今後、大規模な臨床試験の実施を予定している、と研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 「心血管疾患」患者のいる家族は、うつ病リスクが増加する可能性-京大ほか
  • 早期大腸がん、発がん予測につながる免疫寛容の仕組みを同定-九大ほか
  • 心臓手術後のリハビリや予後にプレフレイルが及ぼす影響を解明-兵庫県立はり姫ほか
  • 糖尿病性神経障害、発症に細胞外基質のコンドロイチン硫酸が重要と判明-新潟大ほか
  • 「リウマチ・潰瘍性大腸炎」治療薬の薬疹リスクアレルを発見-理研ほか