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抗精神病薬を多剤併用の精神科入院患者でADEの頻度が高い-京都府医大ほか

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2021年06月17日 AM11:30

抗精神病薬の多剤併用、薬剤性有害事象()への影響は?

京都府立医科大学は6月16日、精神科入院患者における抗精神病薬の多剤併用(2剤以上の併用)が、単回および複数回の薬剤性有害事象(Adverse Drug Event:薬剤使用に伴う健康被害、以下ADE)の発生に影響していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科精神機能病態学の綾仁信貴客員講師(舞鶴医療センター臨床研究部精神医学・臨床疫学研究室室長)、同精神機能病態学の成本迅教授、兵庫医科大学臨床疫学の森本剛教授および作間未織講師、慶應義塾大学医学部精神・神経学教室の菊地俊暁講師、杏林大学医学部精神神経科学教室の渡邊衡一郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Clinical Psychopharmacology」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

多剤併用()とは、複数の薬を一人の患者に同時に使用することを指す用語であり、一度にどの程度の薬剤を使用することを多剤併用と定義するかさまざまな議論があるが、「治療上必要とされる以上の薬剤の使用」という定義が一般的とされている。例えば精神科治療において、治療抵抗性のうつ病では抗うつ薬に加えて抗精神病薬や炭酸リチウム(主に躁うつ病の治療に用いられる薬剤)を併用することは標準的な治療方法だ。しかし、複数の向精神薬(精神科治療で用いられる薬剤の総称)の多剤併用は、死亡率の増加・転倒・入院期間の長期化およびADE発生などのリスクとなり得るといわれている。

向精神薬のうち「」は主に統合失調症の治療に用いられるが、その他に躁うつ病・うつ病・強迫性障害・発達障害・せん妄などさまざまな精神疾患や、幻覚・妄想・興奮・混乱などの精神症状の治療のために用いられている。抗精神病薬の2剤以上の併用(抗精神病薬の多剤併用)は実際の診療場面ではしばしば認められ、精神科入院患者の20~66%で認められるという報告もある。多くの治療ガイドラインでは抗精神病薬の単剤療法を推奨しているが、抗精神病薬の多剤併用が実際の診療現場において、ADEの発生にどのように影響しているかは明らかではなかった。

JADE-Studyから精神科病棟入院患者の情報を用いて検討

JADE-Study(日本薬剤性有害事象研究)は日本のさまざまな治療現場でのADEに関するコホート研究で、共同研究者である兵庫医科大学臨床疫学の森本剛教授により確立された緻密な調査方法。医師や看護師などによる経過記録・処方歴・検査結果を含む全ての診療記録に加え、院内で発生した医療に関連する事故やエラーなどの報告(インシデント・レポート)、薬局からの問い合わせ(疑義紹介)を網羅的に調査し、得られた情報を複数名の医師により検証する方法だ。実際の診療場面におけるADEを高い精度で収集するとともに、年齢・性別・主病名・合併症・服用中の薬剤などの患者背景情報を同時に収取することで、ADEの発生に影響する要因についても調査することできるという特徴がある。

今回の研究では、JADE-Studyの一環として精神科病棟に入院した全ての患者を対象に行われた研究(JADE-Study for Psychiatry)から得られた情報のうち、ADEに関する情報、処方薬剤情報および患者背景情報を用い、抗精神病薬の多剤併用とADEの発生との関連について調査した。

多剤併用群で、ADEを1回以上起こす頻度が約1.5倍高い

精神科入院患者に対するJADE-Studyは、2病院の精神科病床に、特定の1年間に入院し、かつ退院した患者448人(総入院日数2万2,733日)を対象に行われ、283人の患者に対して955件のADEが認められた。

症状は便秘(22%、209件)、転倒(15%、146件)、錐体外路障害(手の震えや体の固さなどに代表される神経の障害)(10%、92件)、過鎮静(9%、82件)が多かった。重症度は、4段階の重症度で最も軽い「重要」が677件(71%)、次に程度が重い「重大」が265件(28%)、2番目に重症の「命に係わる」が13件(1.4%)で、最も重い「死亡につながる」は認められなかった。処方薬剤は、435人に対して3,990の定期的な処方が行われ、このうち抗精神病薬の定期的な処方は290人に対して442認められた。抗精神病薬ではリスペリドンが最も多く処方され(25%、109処方)、かつ最も多く1種類で用いられており(58%、63/109処方)、レボメプロマジンが最も他の薬と組み合わせて用いられていた(91%、29/32処方)。

抗精神病薬の多剤併用を受けた患者は106人(23.6%)で、単剤治療を受けた患者は184人(41.1%)、全く投与されなかった患者は158人(35.3%)であり、抗精神病薬の多剤併用を受けた患者(以下、多剤併用群)では、そうではない患者(以下、非多剤併用群)と比べてADEの数が有意に高く、(2 vs 1(中央値)、p=0.001)。また、重症度が「重大」または「命に係わる」ADEの割合も、多剤併用群で有意に高いという結果だった(36% vs 26%、p=0.0499)。

ADEが発生するまでの時間を含めた分析方法(生存時間解析)でも、初回ADEおよび2回目ADEのいずれにおいても多剤併用群での発生率は非多剤併用群と比べて有意に高く、年齢や服用薬剤数、身体合併症数などの患者背景情報の影響を含めた分析方法(多変量解析)でも、多剤併用群では初回ADEおよび2回目ADEを生じるリスクがそれぞれ約1.5倍と約2倍高いという結果が得られた。

研究成果は、抗精神病薬の多剤併用の安全性に対する注意喚起に

今回の研究から、抗精神病薬の多剤併用は精神科入院患者の4分の1が受けているという一般的なものであり、さらに抗精神病薬の多剤併用を受けている患者では、そうではない患者と比べてADEが生じるリスクは高いということが明らかになった。

抗精神病薬が使用される精神疾患は近年拡大傾向であり、今後もさまざまな精神疾患の患者に対して幅広く用いられることが予想されるが、使用においては薬剤の持つ有効性だけではなく安全性についても十分考慮する必要がある。

「抗精神病薬の多剤併用とADEの関連が実証的に明らかにされたことは、今後の精神科診療に対する抗精神病薬の多剤併用の安全性に対する注意喚起となり、精神科医療における質の向上に寄与することが期待される。本研究のように、臨床現場での安全性に関する疫学調査の重要性は、今後ますます高まっていくものと思われる」と、研究グループは述べている。

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