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心房細動合併の炎症反応、ミトコンドリア由来セルフリーDNAが関連-東京医歯大

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2021年03月22日 PM12:15

細胞ストレスなどに応じて細胞外へ遊離、血管内を循環するセルフリーDNAに着目

東京医科歯科大学は3月18日、心房細動に合併する炎症反応の原因が、高頻度興奮によって心筋細胞から放出されたミトコンドリア由来セルフリーDNAであることをつきとめたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科循環制御内科学分野の笹野哲郎教授と循環生理解析学分野の山添正博助教らと、難治疾患研究所生体情報薬理学分野の古川哲史教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

心房細動は最もよく見られる不整脈の一つであり、心房内での不規則かつ高頻度な電気活動によって脈の不整を来たす疾患。日本の患者数は、約100万人とされている。加齢とともに有病率が増加するため、社会の高齢化に伴い、今後ますます患者数は増えると予想されている。

心房細動は動悸や胸の不快感といった自覚症状だけでなく、脳梗塞、心不全、認知症、腎機能低下、血管内皮機能障害など、さまざまな全身性合併症を引き起こし、その機序には全身の炎症反応上昇が関与していることが示唆されている。しかし、なぜ心房細動が全身の炎症を引き起こすのか、その原因は明らかではなかった。

今回の研究では、細胞ストレスや細胞死に応じて細胞外へ遊離し血管内を循環するセルフリーDNAに着目。血漿中セルフリーDNAレベルと心房細動の病態との関連、そして心筋細胞から放出されたセルフリーDNAが心房細動に付随する全身性炎症反応の原因となりうるかを検討した。

心房細動患者、特にミトコンドリア由来セルフリーDNAレベル「高」

研究グループは、心房細動患者群(発作性心房細動患者、持続性心房細動患者)、非心房細動患者群(若年健常者、心房細動患者群と年齢をマッチさせた非心房細動高齢者)からそれぞれ末梢血を採取し、セルフリーDNAを抽出し定量。その結果、心房細動群では非心房細動高齢者群よりもセルフリーDNAレベルが高値であることがわかった。

ヒトの細胞において、DNAは核の中に存在する。また、ミトコンドリアはもともと別の生物であったものが細胞内に取り込まれたという由来から、ミトコンドリア内には独自のDNAが存在する。そのため、セルフリーDNAもそれぞれ核由来セルフリーDNA、ミトコンドリア由来セルフリーDNAに分類することができる。研究グループの検討では、心房細動患者では特にミトコンドリア由来セルフリーDNAレベルが高いことが明らかとなった。

続いて、マウスに心房細動を模した高頻度ペーシング刺激を施したところ、臨床での検討と同様に血中のセルフリーDNAが上昇し、特にミトコンドリア由来セルフリーDNAが増加していたという。さらにマウス培養心筋細胞を用いた実験でも、高頻度ペーシング刺激によりセルフリーDNAが放出されたことから、高頻度興奮下にセルフリーDNAを放出するのは心筋細胞そのものであることがわかった。

ミトコンドリア由来セルフリーDNA、心房細動の発症・進展に良好な識別能

さらに、セルフリーDNAと炎症の関連を評価するために、高頻度興奮により心筋細胞から放出されたセルフリーDNAをマウスマクロファージ培養細胞に添加したところ、炎症性サイトカインであるインターロイキン1β(IL-1β)、インターロイキン6(IL-6)の発現上昇が見られた。この炎症誘導は、主にミトコンドリア由来セルフリーDNA添加によって生じたという。

核DNAとミトコンドリアDNAは、DNAのメチル化の程度が異なる。核DNAの大半はCpG領域がメチル化されているが、ミトコンドリアDNAではメチル化CpGは全体の1%以下だった。マクロファージは、セルフリーDNAを取り込み、Toll-like receptor 9(TLR9)を介して非メチル化DNAを認識して炎症反応を生じていたとしている。

ヒトの末梢血における総セルフリーDNA、核由来セルフリーDNA、ミトコンドリア由来セルフリーDNAが、心房細動発症予測、ならびに心房細動が発作性から持続性への進展の予測能を評価したところ、ミトコンドリア由来セルフリーDNAが心房細動の発症、進展に良好な識別能を示すことが明らかとなった。

心房細動合併症の新規治療法開発に期待

今回の研究成果により、セルフリーDNA、特にミトコンドリア由来セルフリーDNAの心房細動発症、重症化の予測マーカーとしての応用が期待される。なかでも発作性心房細動は文字通り発作時でなければ診断が困難であるため、予測マーカーとしての応用は心房細動の早期発見、早期介入への橋渡しとなる可能性があるという。

さらに、セルフリーDNAを起点とした炎症反応経路を標的とすることで、心房細動合併症に対する新規治療法開発の糸口となることが期待される、と研究グループは述べている。

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