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血液脳関門における薬物の脳移行性を予測する新システムを開発-NIBIOHN

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2021年03月02日 PM12:00

P-gpの化合物輸送能の考慮で、高精度な予測が可能に

)は2月24日、(BBB)におけるP-糖タンパク質(P-gp)の化合物輸送能を考慮した、薬物の脳移行性が予測可能な新たなモデルの開発に成功し、このモデルに基づき構築したシステムをアプリケーションとしてウェブ上に公開したと発表した。この研究は、同大研究所AI健康・医薬研究センターの水口賢司センター長、バイオインフォマティクスプロジェクトの渡邉怜子プロジェクト研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学雑誌「」に掲載されている。


画像はリリースより

薬物の脳移行性を予測するインシリコ予測モデルの開発は、薬物動態に影響を与えるさまざまな因子を考慮する必要があることや、BBBの仕組みが複雑であることから、難しい課題とされてきた。

今回、研究グループが開発したモデルは、血液脳関門において薬物の脳移行性に大きく影響するトランスポーターであるP-gpの化合物輸送能を考慮していることから、既存の方法と比べて高精度な予測が可能となった。

P-gp NERによる補正を用いた薬剤の脳移行性の予測手法、ラットで検証

まず、研究グループはP-gp輸送能(P-gp NER)、fu,brain、fu,pの予測モデルを公共データおよびIn-houseデータを用いて構築し、既存の予測モデルと同等以上の予測精度があることを示した。P-gp NERについては線形回帰による直接的な数値の予測が困難であったため、化合物情報から P-gp NERが「高」「中」「低」の3段階のうちどれに相当するかを予測する3分類モデルを構築した。

実験値を基に in vitro P-gp NERを3段階に分類し、各分類におけるP-gp NERの代表値を求め、P-gp NERとして代用することとした。さらに、東北大学の寺崎教授らの先行研究により提唱された手法を用いて、in vitro P-gp NERの代表値をBBBのP-gp NERの代表値へと変換した。

次に、P-gp Knockout(KO)ラットとWild type(WT)ラットを用いて、P-gp NERによる補正を用いた脳移行性の予測手法を検証。また、上述の変換により得られたBBBのP-gp NERの代表値を代用してP-gp KOラットのKp,brain値の補正を行った結果、WTラットのKp,brain値の5倍以内に入る確率が52.2%から76.1%に向上した。また、最初に構築したP-gp NER予測モデルの予測結果を用いて補正した場合においても、WTラットのKp,brain値の5倍以内に入る確率は69.6%まで向上することが示された。

さらに、全て実測値を用いて補正・算出したP-gp KOラットのKp,uu,brain値と最初に構築した3つの予測モデルによる予測値を用いて補正・算出したP-gp KOラットのKp,uu,brain値について、WTラットのKp,uu,brain値の10倍以内に入る確率は92.9%および73.8%だった。

実測値を使用した場合は9割以上、予測値を使用したとしても7割以上の化合物においてWTラットの10倍以内の範囲でKp,uu,brain値が導き出されていることから、P-gp NERの代表値を代用してKp,uu,brain値を補正することが可能であることをP-gp KOラットを用いることによって検証し、さらにPgp NER、fu,brain、fu,pを予測値に置き換え可能であることを示すことに成功したという。

従来法での算出に比べ、予測値で補正法を適応して求めた値の方がより実測値に近く

これまでに検証を行ったP-gp NERを用いた補正法を創薬の場において実用化するためには、単純な測定値や構造情報のみを用いて予測可能であることが望ましく、検証に用いたようなP-gp KOラットのKp,brainを利用した補正は現実的ではない。

そこで、Rodgersらにより提案された微分リン脂質法を用いてKp,brainを計算し、P-gp KOラットのKp,brainで検証した補正法を、Rodgersの式を用いて計算されたKp,brainに適用。その結果、従来の方法で算出したKp,uu,brain値よりも、予測値を用いて補正法を適応して求めたKp,uu,brain値の方がより実測値に近いことが示された。

この予測モデルに基づき構築した予測システムは、誰もが利用可能なアプリケーションとして、ウェブ上に公開されている。

認知症治療薬などの開発スピード向上に期待

同システムは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構創薬支援推進事業「創薬支援インフォマティクスシステム構築」において構築された薬物動態予測の統合解析プラットフォームであるDruMAP(Drug Metabolism and pharmacokinetics Analysis Platform)に組み込まれ、脳移行性以外の複数の薬物動態パラメータと共に統合的な解析が可能となる。

これまで「創薬支援インフォマティクスシステム構築」において構築してきた溶解度や肝固有クリアランスなどの予測モデルは、2021年2月に富士通株式会社より販売開始予定の、ネットワークや他の機器に接続せずに単独で動作可能なAI創薬基盤「SCIQUICK(サイクイック)」に搭載済み。今回公開したウェブ上のシステムについても「SCIQUICK(サイクイック)」への搭載を検討するという。

また、同手法はP-gpの基質化合物に有効な予測法だが、P-gp以外にも数多くのトランスポーターへの応用が可能であり、それらを同様に考慮することにより、さまざまなトランスポーターの基質になる薬物の予測が可能になることが期待される。

現在は倫理的な問題もあり、ヒトにおける検証データが不足していることから課題が存在するが、ラットのin vitroパラメータから、ヒトのBBBにおけるトランスポーター活性を推定することで、さまざまなトランスポーターの基質となる薬物のヒトの脳移行性を予測できる可能性があるという。

認知症治療薬などの開発スピード向上へつながることが期待される、と研究グループは述べている。

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