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日本人の重症ミトコンドリア病、出生前診断を実施し結果を報告-千葉県こども病院ほか

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2021年02月15日 AM11:30

新生児期・乳児期に発症する重症ミトコンドリア病、多くは生命予後不良

千葉県こども病院は2月10日、日本人の核遺伝子変異による新生児期・乳児期発症重症型ミトコンドリア病の罹患児を出産した経験のある13家族に対して出生前診断を実施し、妊娠経過や各家系の発症者の情報をまとめた結果を論文報告したと発表した。この研究は、千葉県こども病院遺伝診療センターの秋山奈々認定遺伝カウンセラー(R)、代謝科の村山圭部長、埼玉医科大学小児科/ゲノム医療科の大竹明教授、・難病の診断と治療研究センターの岡﨑康司教授(センター長)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより

ミトコンドリア病は、約5,000人に1人の頻度で発症する最も頻度の高い先天代謝異常症。新生児期・乳児期に発症する重症ミトコンドリア病については、重篤な経過を辿り、生命予後が悪いケースが多いこと、また、根本的な治療法がいまだ存在しないことが大きな課題となっている。

より適切な遺伝カウンセリング等の際の正確な情報源を得るために

研究グループは、2007年からミトコンドリア病の生化学および遺伝子診断を行いつつ、2015年からミトコンドリア病の診療基盤構築(診断システムの確立、診断基準や診療マニュアルの策定、レジストリ構築)を進めてきた。2020年には日本におけるLeigh脳症の160名の予後および重症型ミトコンドリア肝症の特徴について論文報告を行い、各病型に対するエビデンス創出研究を進めている。今回の成果は、新生児期・乳児期発症のミトコンドリア病の分子遺伝学的診断や出生前診断体制構築を進める中で得たものだ。

日本ではこれまで、重症ミトコンドリア病の1つであるLeigh症候群を対象とした着床前診断の報告はなされていたが、絨毛検査や羊水検査を用いた出生前診断の報告はなされていなかった。遺伝子解析技術の向上により、発症者の遺伝学的診断率は年々向上しており、今後出生前診断を希望するご家族の数が増えていくことが予測される。出生前診断における大切なプロセスである遺伝カウンセリングでは、心理社会的支援だけでなく、正確な情報提供がとても重要となる。今回の報告は、より適切な遺伝カウンセリングや遺伝医療提供を行う際の正確な情報源とすることを目的にまとめられた。

核遺伝子変異による重症罹患児出産経験の13家族16例で出生前診断を実施

今回実施した出生前診断の対象となったのは、これまでに新生児期・乳児期発症の重症ミトコンドリア病と遺伝学的に診断されている罹患児を持つ両親・家族において出生前診断の希望があった13家族の18妊娠。この18妊娠のうち、2例は出生前診断実施前に自然流産となり、16例について絨毛検査/羊水検査による出生前診断を実施した。

各家系の発症者については、13例の発症者のうち、7例は生後1か月未満での発症、残りの6例は生後1年以内の発症だった。また、4例では発症者の兄または姉が新生児期もしくは乳児期に亡くなった。現在の発症者の状況について、7例は1歳未満で亡くなった。残る6例のうち4例は1歳以降で亡くなり、2例は生存しているが重篤な経過を辿っている。

半数の胎児で発症者と同じ遺伝子型、重症ミトコンドリア病発症の可能性が高い

出生前診断の結果、16例のうち5例はいずれかの両親と同じ常染色体劣性遺伝子の保因者だった。2例では病的バリアントは確認されなかった。1例は発症者がX連鎖遺伝形式をとるTAZ遺伝子に変異をもつ家系であり、出生前診断検体を用いた遺伝子解析に先行して行った染色体核型解析において女児であることが確認された。TAZ遺伝子の変異においては女児(性染色体の組み合わせはXX)では、1つのX染色体上の遺伝子に病的バリアントが存在しても疾患を発症する可能性は極めて低いため、遺伝子解析は実施しなかった。残りの8例は家系内の発症者と同じ遺伝子型を持ち、家系内の発症者の経過や過去の報告からも重篤なミトコンドリア病を発症する可能性が高いことが示唆された。この結果を受けて遺伝カウンセリング、および、家族の意思決定における支援が実施されたという。

今回の報告は、核遺伝子変異による重篤な新生児期・乳児期発症のミトコンドリア病を対象とした出生前診断に関する国内初の報告となるもの。対象とした発症者の経過はいずれも重篤であり、新生児期・乳児期発症のミトコンドリア病の治療の限界・予後改善の難しさを示している。一方で、出生前診断において重要なプロセスである遺伝カウンセリングの中で、家族に提供する情報源を整備することができた。また、英国で既に始まっているミトコンドリア遺伝子異常に基づくミトコンドリア病を対象とした核移植、および国内でも一部の疾患に関して技術開発が進んでいる着床前診断や遺伝子治療について、日本で活発な議論を進める契機になるものと想定されるという。研究グループは、「核遺伝子を含めた包括的な遺伝子診断の整備、重篤なミトコンドリア病の新たな病態解明と病因遺伝子に基づく治療開発など、ミトコンドリア病研究の一層の発展につながることを期待する」と、述べている。

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