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うつ病を脳回路から見分ける人工知能技術を開発-ATRほか

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2020年12月09日 PM12:15

fMRIが臨床でいまだ実用化されていないのはなぜか

(ATR)は12月8日、人工知能技術を駆使し、機能的磁気共鳴画像()データに基づいた、有効な大うつ病の脳回路マーカーを世界に先駆けて開発したと発表した。これは、ATR脳情報通信総合研究所の山下歩研究員らと、、山口大学、理化学研究所の共同研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS Biology」に掲載されている。


画像はリリースより

人間の脳は巨大な情報ネットワークと見なすことができる。このネットワークは、遺伝で大まかな構造が決まり、さまざまな経験をすることで、個人に固有なネットワークが形作られる。最近では、5~10分間安静にしているときの脳活動(安静時脳活動)をfMRIで計測するだけで、その人の脳内の領域同士がどのようにつながっているかを解読できる。これは、個人に特有な「脳の配線図」ともいえる。

fMRIは多くの臨床現場で使用されているMRIを用いることで取得可能な脳画像データであり、その安全性や情報量の多さから、臨床応用が以前から期待されていた。実際に、機械学習法による人工知能がこの脳の配線図を読み取ることで、患者の診断や患者に有効な治療法を予測することが可能になってきた。しかし、これらの技術が臨床の現場で実用化されるケースはいまだない状態だ。

計測データの施設間差を解決するハーモナイゼーション法

これまでの多くの研究では、1施設で数十人程度のfMRIデータから計算された脳の配線図と機械学習法を組み合わせ、患者の診断予測などを行ってきた。しかし、これらの研究成果を用いて、他施設で得られたfMRIデータから診断予測をしてもほとんど再現できないことがわかってきた。

この原因は、少数のデータサンプルで、多くの要因が関与する脳画像の背後にある法則を学習しようとすると、機械(コンピュータ)はそのデータサンプルだけにしか通用しない特殊なことを学習してしまう「過学習」という現象が起きるからであると考えられている。

過学習を避けるには、多くのfMRIデータが必要になるが、1つの施設で集められる被験者には限りがある。そこで、複数の施設が協力してデータを集めることが必要になるが、同じfMRIデータであっても、計測した施設によってデータの性質が全く異なってしまうという施設間差の問題があった。この施設間差の問題について、研究グループは2019年度、独自のハーモナイゼーション法(施設間差を除去して均質なデータセットとして統合する方法)を開発することで解決した。

そして今回、ハーモナイゼーション法に基づいて、異なる複数の施設から収集されたデータを調和されたひとまとまりの大規模データ(総数1,584例)として解析を行った。

国内4施設713人の健常者・うつ病患者から、66%の精度で大うつ病患者を判別

脳プロ統一プロトコルと呼ばれる、ある程度均質な手法に基づいて、国内4施設(広島大COI・京大・東大・昭和大)の研究参加者713人(健常者564人、うつ病患者149人)の安静状態における脳活動を、各施設のfMRI装置を用いて10分間計測し、全部で713サンプル(発見用データセット)を取得した。脳を379個の小領域に分割し、1人ひとりについて各領域における機能的MRI信号の時間波形を取り出し、それらが任意の2領域間でどの程度似ているか相関係数として数値化した。これを領域間機能的結合と呼ぶ。

379個の小領域の全てのペア(7万1,631個)について機能的結合を計算することで、個人の脳全体の回路を定量的に調べ、全脳の配線図(=7万1,631個の数値からなるベクトル)が作成される。これを参加者全員分について求め、人工知能技術を適用することで研究参加者が大うつ病患者なのか健常者なのかを見分ける「大うつ病脳回路マーカー」を作成した。この脳回路マーカーで全脳の配線図から個人のうつ病度を数値化し、その大小で大うつ病患者を自動判別する。その結果、713人の健常者・うつ病患者を66%(AUC = 0.74)の精度で判別することができた。

さらに、この脳回路マーカーがどこの施設で撮像した脳画像データに対しても有効かを調査するために、国内4施設(梶川病院・広島市総合リハビリテーションセンター・広島大病院・山口大学)および一般公開されている国外施設の研究参加者合計521人(健常者285人、うつ病患者236人)の安静状態における脳活動データを収集し、全部で521サンプル(検証用データセット)を取得し、検証した。その結果、521人の健常者・うつ病患者を66%(AUC = 0.74)の精度で判別することができた。また、同時に人工知能に基づいてうつ病診断に重要な結合を特定することに成功した。

専用端末から医師がデータを送付、自動解析で判断指標を示す仕組みを目指す

今回開発した方法の臨床応用のイメージは、以下の通りである。精神科における一般診療として広く行われている器質的因子除外のためのMRI撮像に加えて、10分間程度のfMRI撮像を行う。このデータをもとに、医師が院内に設置された専用端末のプログラムを操作することで、株式会社XNef(実用化を目指す企業)が運営管理する院外の解析処理サーバーに脳画像を送付して自動的に解析が行われ、うつ病脳回路マーカーの解析結果が端末側プログラムに表示されるという仕組みである。

うつ病の臨床診断は、通常、問診から得られた臨床症状の経過・表情・質問への回答の様子などから推察される思路など複数存在する情報から診断基準に基づき決定されるが、同医療機器は判断指標の1つを提供するものとして、医師が解析結果を参考情報として臨床的判断を行い、治療を開始することを可能にする。

XNef社は、ATR、広島大学、AMED等と連携しながら、今回の研究で特定されたうつ病脳回路マーカーに関して、医療機器プログラムとして実用化するために、医療機器開発前相談を含め7回の相談をPMDAと行い、うつ病脳回路マーカーの開発方針に関してコンセンサスを得ている。2021年度にはうつ病脳回路マーカーの承認申請を行い、2022年度中の承認取得、最終的には保険適用され、実臨床で広く利用されることを目指している。(QLifePro編集部)

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