医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 消化器がん治験スクリーニング、リキッドバイオプシー実施で登録患者増加-国がん

消化器がん治験スクリーニング、リキッドバイオプシー実施で登録患者増加-国がん

読了時間:約 2分
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年10月08日 PM12:15

治験スクリーニング検査でリキッドバイオプシーと腫瘍組織検査を大規模比較

国立がん研究センターは10月6日、消化器がんにおいて、患者の血液を用いてがんのゲノム異常を検出する検査()を治験のスクリーニングに取り入れた結果、従来の腫瘍組織検査に比べてより迅速に検査結果が返却され、より多くの患者が治験に登録されたことを世界で初めて示したと発表した。この研究は、同センター東病院消化管内科長の吉野孝之氏、同院トランスレーショナルリサーチ支援室・消化管内科医員の中村能章氏らがGI-SCREEN-JapanおよびGOZILA Studyを通じて行ったもの。研究成果は、「Nature Medicine」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

がんゲノム医療の実現のため、がんのゲノム異常に基づいて治療薬の効果を検証する治験が世界中で行われている。これらの治験では、患者のがんゲノム異常を同定するため、腫瘍組織の解析が従来用いられてきた。しかし、必ずしも腫瘍組織が採取できない患者がいることや、腫瘍組織の解析に時間を要することなどが、これらの治験促進の大きな障壁となっていた。

一方、近年、リキッドバイオプシーの技術が目覚ましい進歩を遂げている。リキッドバイオプシーは腫瘍組織を採取できない患者でも、ゲノム異常を解析することができ、検査結果の返却も早いことから、従来の腫瘍組織検査がもつ課題を克服する可能性が示唆されてきた。しかし、消化器がんにおいて治験のスクリーニング検査として、腫瘍組織検査とリキッドバイオプシーの有用性を大規模に比較した研究はこれまでなかった。そこで今回、同院で、産学連携全国がんゲノムスクリーニング事業「(スクラム・ジャパン)」の基盤を活用した、世界に類を見ない大規模な比較研究が実施された。

リキッドバイオプシーでより迅速に検査結果返却、より多くの患者が治験登録

同センターでは、SCRUM-Japanを立ち上げ、2014年2月より「-Japan(現:MONSTAR-SCREEN)」に取り組んできた。-Japanは、国内の主要ながん専門病院や大学病院と協働して、進行消化器がん患者の腫瘍組織を遺伝子パネル検査(Oncomine Comprehensive Assay)で解析し、治療薬を届ける全国がんゲノムスクリーニングプロジェクトだ。さらに2018年1月より、-Japanの基盤を活用し、進行消化器がん患者の血液をリキッドバイオプシー((R)、Guardant AMEA Inc.)で解析するスクリーニングプロジェクト「GOZILA Study」を、米国Guardant Health社との共同研究として開始した。

今回の研究では、2015年2月から2019年4月まで(4年2か月)にGI-SCREEN-Japan(腫瘍組織検査)に登録された5,743例と、2018年1月から2019年8月まで(1年7か月)にGOZILA Study(リキッドバイオプシー)に登録された1,787例を比較した。

比較結果(GI-SCREEN-Japan vs. GOZILA Study)は、以下の通り。
・プロジェクト登録後~検体到着までの期間(中央値:14日 vs. 4日、P<0.0001)
・検体到着後から解析結果が患者に返却されるまでの期間(中央値:19日 vs. 7日、P<0.0001)
・治療標的となるゲノム異常が同定された患者の割合(54% vs. 57%)
・ゲノム異常に適合した薬剤の治験に登録された患者の割合(4.1% vs. 9.5%、P<0.0001)
・治験治療で腫瘍が縮小した患者の割合(16.7% vs. 20.0%、P=0.69)
・治験治療で病気が悪くなるまでの期間(中央値:2.8か月 vs. 2.4か月、P=0.70)

また、GOZILA Studyのリキッドバイオプシーで同定されたゲノム異常のプロファイリングの結果、有用なバイオマーカーや治療標的として将来的な臨床開発につながる可能性のある新たなドライバー遺伝子異常(食道扁平上皮がんのNFE2L2変異や膵がんのGNAS変異、胆道がんのCTNNB1変異など)が複数見出された。

リキッドバイオプシーの活用で、より多くの患者に最善の医療を

今回の研究成果により、リキッドバイオプシーがスクリーニング検査としてより多くの治験に活用されることで、より多くの患者に最善の医療を提供できることが期待される。また、新たなドライバー遺伝子異常の発見により、これまで着手されていなかったドライバー遺伝子異常に対する治療開発が活発化する可能性がある。GOZILA Studyでは、既にリキッドバイオプシーの結果に基づく医師主導治験が複数実施されている。今後も国立がん研究センター東病院は、1人でも多くの患者が最善の治療を受けられるよう、リキッドバイオプシーによるがんゲノム医療の実現を目指していくとしている。(QLifePro編集部)

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 肝線維化の治療薬候補を同定、iPS細胞から誘導の肝星細胞で-東大ほか
  • 「ストレス造血時」における造血幹細胞の代謝調節を解明-東北大ほか
  • 食道扁平上皮がんで高頻度のNRF2変異、がん化促進の仕組みを解明-東北大ほか
  • 熱中症搬送者、2040年には日本の都市圏で2倍増の可能性-名工大ほか
  • 日本人がアフターコロナでもマスク着用を続けるのは「自分がしたいから」-阪大ほか