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AIが潰瘍性大腸炎の内視鏡画像評価を高精度で行うシステムを開発-東京医歯大ほか

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2020年03月04日 AM11:15

問題視されていた組織学的な寛解評価に伴うコストとリスク

東京医科歯科大学は3月2日、ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ株式会社に共同研究の協力を得て、潰瘍性大腸炎内視鏡画像に基づくコンピューター画像支援システム(DNUC; deep neural network system based on endoscopic images of ulcerative colitis)を試験的に開発したと発表した。これは、同大医学部附属病院消化器内科の竹中健人助教と同大高等研究院の渡辺守院長と同大医学部附属病院光学医療診療部の大塚和朗教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「Gastroenterology」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

潰瘍性大腸炎は慢性の炎症性腸疾患で、症状の寛解と増悪を繰り返し、日常生活の質に強く影響する病気だが、近年の治療の進歩の結果、症状を抑えるだけでなく、病気の炎症そのものをコントロールすることが可能となった。炎症のコントロールのためには、症状寛解だけでなく「粘膜治癒」を達成することが重要であり、下部消化管内視鏡検査を行い、「内視鏡的な寛解」および「組織学的な寛解」を評価することが必須だ。しかし、その評価を行うには病気に対する知識や経験が必要であり、医師の主観に基づくため、相違が生じることが問題だった。さらに「組織学的な寛解」評価のためには内視鏡検査で粘膜生検を採取する必要があり、採取に伴うコストや合併症が避けられなかった。

研究グループは、深層学習というAI技術を用いることで、潰瘍性大腸炎の内視鏡画像に基づくコンピューター画像支援システム(DNUC)を開発し、その精度を前向きに検証した。

「内視鏡的な寛解」に対する精度は90.1%、「組織学的な寛解」に対する精度は92.9%

2014年1月~2018年3月までに同大医学部附属病院で潰瘍性大腸炎患者に施行された下部消化管内視鏡の画像と粘膜生検を見直し、AI学習に適切と思われるデータ(2,012名、4万758画像、6,885粘膜生検)を収集。その後にすべてのデータに対し、UCEISスコアとGeboesスコアを専門医により点数付けした。同研究では、UCEISスコア0点を「内視鏡的な寛解」、Geboesスコア3.0以下を「組織学的な寛解」と定義。このデータセットを学習データとして用い、ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズの協力を得て、DNUCを開発した。入力された画像をもとに、DNUCは「UCEISスコア」と「内視鏡的な寛解」と「組織学的な寛解」を出力する。

開発したDNUCの精度は、2018年4月~2019年4月まで前向きに検証した。下部消化管内視鏡を行う潰瘍性大腸炎患者に対し、この研究について説明し文章同意を得た上で、内視鏡検査と粘膜生検を実施(875名、4,187画像、4,104粘膜生検)。内視鏡評価については、潰瘍性大腸炎の専門医3名の合議によって決められ、組織評価については病理専門医および潰瘍性大腸炎の専門医の合議によって決められた。これにより得られたデータを検証用データとして解析したところ、DNUCの「内視鏡的な寛解」に対する精度は、90.1%、「組織学的な寛解」に対する精度は92.9%だった。

研究グループは、同研究の意義として、以下の3点を挙げている。

・実際の臨床現場に即した形で収集した検証用データを用いてDNUCの精度検証を行った結果、DNUCは良い精度を示し、臨床現場でも将来的に実用可能であることがわかった。

・DNUCは「内視鏡的な寛解」を、潰瘍性大腸炎の専門医と同様に高い精度で評価ができる。さらに、同じ画像からは常に同じ内視鏡評価を出力するため、「いつでも」「どこでも」「だれでも」同様の内視鏡評価が可能となる。今後、DNUCは病気の重症度や治療効果を評価する基準となることが期待できる。

・DNUCは内視鏡画像のみで「組織学的な寛解」を評価することが可能であるため、粘膜生検に関連するコストとリスクを無くすことができる。

研究グループは、将来的に潰瘍性大腸炎に対する内視鏡評価の方法を変えるツールにすべく、今後は実用化に向けた検討を進めるとしている。

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