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エボラ出血熱ワクチン「iEvac-Z」の第1相臨床試験を開始-東大病院

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2019年12月10日 AM11:00

効果的な治療法は無く、さまざまなタイプのワクチン開発が進むエボラ出血熱

東京大学医科学研究所附属病院は12月5日、エボラ出血熱の予防が期待されるワクチン「」について、2019年12月より、成人男性を対象に第1相臨床試験を実施することを発表した。この研究は、同大医科学研究所附属病院の四柳宏教授らの研究グループによるもの。これまで、同製剤のヒトでの投与例は無く、同試験がFirst in Humanの試験となる。


画像はリリースより

エボラ出血熱は、エボラウイルスの感染によって引き起こされる急性熱性疾患。突然の発熱と共に疼痛、脱力感などのさまざまな症状が現れる。その病原性は極めて高く、致死率50〜90%を示すウイルス種もある。1976年にスーダンとコンゴ民主共和国(旧ザイール)で初めて確認されて以来、アフリカで断続的に発生しており、アウトブレイクも何回か報告されている。2014~2016年に発生した西アフリカでのエボラ出血熱のアウトブレイクでは、28,639名の感染者が報告され、そのうち11,316名が犠牲となった。その後も散発的な報告が続き、最近では2018年にコンゴ民主共和国で、エボラ出血熱のアウトブレイク宣言が出され、2019年10月現在も流行は続いている。これまでに3,228名の感染者が報告され、そのうち、2019年10月18日時点で2,157名が犠牲となっている。

現在、エボラ出血熱に対する効果的な治療法は無く、ワクチンも実用化に至っていないが、海外ではさまざまなタイプのワクチンが開発されている。そのうち2種類は西アフリカでのアウトブレイク中にWHO主導のもと臨床試験が行われた。1種目のワクチンは500名に接種し効果が認められたが、ワクチン製造に大量のウイルスを必要とするため、製造の効率化が大きな課題となっている。2種目のワクチンは約1万名に近い規模で臨床試験を実施し、効果が認められたが、重篤な副作用が80名で認められ、そのうち2名はワクチンが原因と判断されている。そのため、今後も安全性については注意深い検証が必要だ。なお、2種目のワクチンは、11月半ばに欧州連合で承認されている。これら2種類のワクチンについては、製造効率などが懸念されているため、より製造効率が高く安全な次世代のワクチン開発が期待されている。

高い安全性が期待される「iEvac-Z」

東京大学医科学研究所感染・免疫部門ウイルス感染分野の河岡義裕教授の研究室では、米国ウィスコンシン大学と連携して、安全で効果的なエボラワクチンを開発するために、エボラウイルスの増殖にとって必須のウイルスタンパク質VP30をコードする遺伝子を欠損させた変異エボラウイルス(エボラΔVP30ウイルス)を作製した。同ウイルスは、通常の細胞では増殖しないが、VP30タンパク質を発現する人工細胞で効率良く増殖する。このエボラΔVP30ウイルスは、VP30タンパク質を発現する人工細胞でしか増殖できないため、高い安全性が期待でき、エボラウイルスのほぼ全てのウイルスタンパク質を有するため、他のワクチンよりも高い有効性が期待できるという。不活化したエボラΔVP30ウイルスをワクチンとして接種したサルに、致死量の野生型エボラウイルスを感染させた結果、免疫群のサルが全て生き残ったことを確認した。以上の結果から、不活化したエボラΔVP30ウイルスは、安全性が高く、効果的なエボラワクチンとして有望であることが示された。

今回の臨床試験で使用する試験薬「iEvac-Z」は、エボラΔVP30ウイルスを、VP30タンパク質を発現させた人工細胞で増殖させ、β‐プロピオラクトンという物質で不活化したもの。β‐プロピオラクトンは、ワクチンの製造過程で全て除去されており、最終的な試験薬には残っていないことが確認されている。また、β‐プロピオラクトン処理後のエボラ ΔVP30ウイルスは、完全に感染力を失っていることを実験的に証明しているため、同ワクチンの安全性は非常に高いと言えるとしている。iEvac-Zの製造は、米国ウィスコンシン大学のWaisman Biomanufacturingにおいて、製造品質管理基準(GMP)に準拠して行われた。同施設における同製剤の製造基準に関しては、日本ワクチン学会理事で城野コンサルティングの城野洋一郎博士によって、日本の治験薬GMPの基準に適合していることが確認されている。同製剤は、厚生労働省およびAMEDの支援を受けて、東京大学医科学研究所で開発したものだ。

河岡教授らは、これまでに、米国ウィスコンシン大学で、iEvac-Zワクチンの有効性と安全性をサルモデルで検証している。今回は東京大学医科学研究所附属病院で、TR・治験センター(センター長:長村文孝教授)と連携しつつ、同製剤のヒトにおける臨床試験を実施する(試験責任医師:附属病院感染免疫内科 四柳宏教授)。

同試験は、iEvac-Zを健康成人の男性を対象4週間の間隔で2回投与した際の安全性や、エボラウイルスに対する免疫の反応を調べることでそのワクチン効果を評価する。同試験の成果は、エボラウイルス感染症の制圧に向けて大きな一歩となることが期待される、と研究グループは述べている。

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