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児童の自制心、幼児期後期からCOMT遺伝子が影響-京大

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2018年01月10日 PM12:00

神経伝達物質ドーパミンの働きを不活性化する酵素COMT

京都大学は1月5日、児童の行動や思考を制御する能力()とその能力に深く関わる外側前頭前野の活動に、カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ遺伝子が影響を与えること、そのタイミングが5~6歳以降であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大教育学研究科の森口佑介准教授(研究当時、上越教育大学准教授)と、国立教育政策研究所の篠原郁子主任研究官らによるもの。研究成果は、「Developmental Science」に掲載された。


画像はリリースより

実行機能は、自分の欲求を我慢したり、頭を切り替えたりするなど、人間の自制心の基盤となる能力。近年、幼児期の実行機能や自制心の個人差が、児童期の学力や友人関係、成人期の経済状態や健康状態を予測することが示されている。しかし、その個人差がどのように生じるかはよくわかっていない。

研究グループは今回、カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ()遺伝子に着目。COMTは神経伝達物質ドーパミンの働きを不活性化する酵素で、COMT遺伝子にはVal/Val型やMet型というタイプがあることがわかっている。成人対象の研究では、Val/Val型の場合、外側前頭前野におけるCOMTの活動が強く、ドーパミンが伝達されにくいことや、Met型の場合はCOMTの活動が弱く、ドーパミンが伝達されやすいことが知られている。

従来、ドーパミンが伝達されやすいMet型がさまざまな行動に優れていると考えられてきたが、近年の研究から、Val/Val型の場合は、ある情報を持続的に保持する作業記憶は不得手である一方で、頭の切り替えなどの認知的柔軟性に優れることが示されている。

3~4歳児では遺伝子多型の影響なし

今回の研究では、3~6歳児81名の口腔細胞を取得し、遺伝子多型を解析。また、実行機能のひとつである認知的柔軟性の課題を与え、課題中の外側前頭前野の活動を近赤外分光法によって計測したという。

その結果、3~4歳児では遺伝子多型の影響がなかったのに対し、5~6歳児ではVal/Val型を持つ児童がMet型を持つ児童よりも認知的柔軟性のスコアが高く出たという。また、Val/Val型を持つ児童のほうが、強く外側前頭前野を活動させていた。この結果は、遺伝子の働きが幼児期後期になると実行機能に影響することや、その神経基盤が外側前頭前野であることを示しているという。

今回の成果について、研究グループは「児童の実行機能が遺伝的に決まっているということを意味するわけではない」としている。幼児期では、子育てなどの環境的要因のほうが遺伝的要因よりも強い影響を及ぼすことから、「生まれ持った個人的資質の影響が出てくるのが幼児期後期であり、その遺伝的資質に応じた子育てや保育・幼児教育、発達支援が必要になってくる」と述べている。

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