人工股関節置換術、最適なタイミングを判断する明確な基準はなかった
九州大学は12月1日、2012年から2018年にかけて同大病院で人工股関節手術を受けた274人を対象に、術前の身体機能(歩行速度・筋力・関節の可動域など)と術後成績との関連を調べた結果を発表した。この研究は、同大病院整形外科の中尾侑貴医員(医学系学府博士課程3年)、濵井敏准教授、中島康晴教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Bone & Joint Surgery」に掲載されている。

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変形性股関節症は、股関節の軟骨の摩耗により痛みや動きの制限を引き起こし、日常生活に支障をきたす疾患である。日本における有病率は1.0~4.3%と報告されている。人工股関節置換術(THA)は、痛みの軽減と機能改善に優れ、変形性股関節症に対する治療法として広く行われており、良好な長期成績が報告されている。しかし、術後の回復の度合いや機能改善には個人差があり、さらにより良い結果を得るための新たなアプローチが求められている。THAの手術適応は、主に痛みの強さやレントゲンで確認される股関節の変形の程度などを基に判断されている。しかし、これらの要素が術後の成績と必ずしも一致するとは限らず、手術の最適なタイミングを判断する明確な基準はなかった。
THA実施274人対象、術前の身体機能が術後成績に与える影響を評価
そこで、今回の研究では、患者自身が答えるアンケートで術後の成績を評価し、術前の身体機能がその結果にどう影響するかを明らかにすることを目的とした。2012年から2018年の間に同大病院で変形性股関節症に対してTHAを行った274人を対象に、術前の痛み、歩行速度、筋力、股関節の可動域を測定した。術後の成績については痛み・機能を評価するOxford Hip Score(OHS)と、股関節の違和感を評価するForgotten Joint Score-12(FJS-12)という2種類の質問票を用いて評価した。さらに、患者が「今の状態に満足できるか」を示す指標として、Patient Acceptable Symptom State(PASS)を用いた。アンケートの点数が一定以上であれば「満足している」とみなす考え方である。また、機械学習を用いて、術後アンケートの結果が似ている患者を自動的にグループ分けする方法を活用し、良好な成績のグループを定義した。
術前歩行速度1.0m/秒以上の患者は、術後の痛み・機能・股関節の違和感のスコアが良好
それぞれの観点から、術後成績と術前の身体機能との関連を多変量解析で検討した結果、術前の歩行速度が術後成績と関係していることが明らかになった。特に、術前の歩行速度が1.0m/秒以上の患者は、痛み・機能・股関節の違和感に関するスコアがいずれも良好であることが示された。さらに股関節屈曲の可動域・筋力が歩行速度に影響する因子であることも明らかになった。
このことから、術前の歩行速度は手術のタイミングを考える上での判断材料や、術前リハビリテーションの目標設定に役立つ可能性があり、今後の人工股関節手術のさらなる成績向上に貢献すると期待される。
患者にとって最適な手術時期を判断する新しい指標となる可能性
今回明らかになった「術前の歩行速度1.0m/秒以上」という指標は、患者にとって最適な手術時期を判断する新しい目安となる可能性がある。地域の医療機関から股関節外科医への紹介のタイミングを決める際の参考にもなり得る。また、術前リハビリテーションでは、歩行速度1.0m/秒を目標に、下肢機能(特に股関節屈曲可動域・筋力)に重点をおいた効果的なプログラムを組むことが可能となる。この新しい知見が臨床現場に普及することで、患者の回復を最大限に引き出し、人工股関節手術の成績向上につながることが期待される、と研究グループは述べている。
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