社交不安症における周波数依存性の脳活動と認知機能との関連は不明だった
千葉大学は12月1日、社交不安症(Social Anxiety Disorder;SAD)の患者を対象に、安静時機能的MRIと認知機能との関連を世界で初めて調査する研究を実施し、その結果を発表した。この研究は、同大子どものこころの発達教育研究センターの和俊冰(Junbing He)特任研究員、平野好幸教授、清水栄司教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Brain Research Bulletin」にオンライン掲載されている。

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SADは社交的な状況に対する持続的な恐怖・不安を特徴とする精神疾患で、生涯有病率は4~16%とされている。青年期に発症しやすく、社会的・職業的・学業的機能に著しい支障を来す。SAD患者では、感情処理・社会的認知・注意・実行機能・記憶などの認知機能障害を示すことが報告されており、これらは前頭前野、扁桃体、中心後回などの脳領域の異常と関連していると考えられている。
近年、脳機能画像研究と神経心理学的評価を組み合わせた多面的な解析の重要性が指摘されているが、両者を統合的に検討した研究は依然として限られている。その中でも、安静時機能的MRIは、脳の自発的活動を評価できる手法として注目されている。特に、安静時機能的MRIから得られる「低周波成分の分数振幅(fractional Amplitude of Low-Frequency Fluctuations:fALFF)」は、精神疾患における自発的神経活動の異常を検出する有用な指標とされている。脳の血流信号には0.01~0.1Hzという非常にゆっくりした揺らぎがあり、これは脳が休んでいるように見えても内部で情報処理を続けていることを表す。fALFFは、この低周波成分が全体の活動の中でどれくらい占めているかを示し、値が高いほど、その脳領域が活発に働いていることを意味する。精神疾患では特定の領域のfALFFが低下することがあり、診断や脳機能の理解に役立つ重要な指標である。
そこで研究グループは今回、fALFFを用いてSAD患者の脳活動を周波数別に解析し、さらに「Cambridge Neuropsychological Test Automated Battery(CANTAB)」による認知機能評価を組み合わせることで、社交不安症における周波数依存性の脳活動と認知機能との関連を明らかにすることを目的とした。
SAD患者に特徴的なfMRIパターンが判明、体性感覚野の一部で脳活動が低下
対象となったのは、選択基準を満たす健常者(HC)40人(女性は20人、平均27.50歳)、SAD患者27人(女性は13人、平均24.33歳)。全参加者に対してリーボヴィッツ社交不安尺度(LSAS)およびBDI-IIベック抑うつ質問票(BDI-II)などの心理尺度を使用して重症度を評価し、CANTABによる認知機能評価を実施した。その後、安静時機能的MRIの撮影を行った。
安静時機能的MRI解析の結果、SAD患者は「典型帯域」および「slow-5帯域」では、身体の感覚情報を統合する領域「体性感覚野」の一部である「両側中心後回(PostCG)」において、HC群よりも有意に低い脳活動(mfALFF)が認められ、「slow-4帯域」では左中心後回に低下がみられた。
SAD患者で中心後回の異常活動を確認、特にslow-5帯域での活動が弱いと認知機能低下
これらのmfALFF値と臨床指標との間には有意な相関は認められなかったが、認知機能との相関解析では、slow-5帯域においてSAD群の左中心後回のmfALFFが低いほど、つまり脳の同部位の自発的活動が低いほど、「与えられた課題に対する答えを最初に選択するまでの反応時間が長い」という有意な負の相関があることが認められた。これらの結果から、SAD患者では中心後回を中心とする周波数依存性の自発的脳活動の低下が認められ、認知機能との関連も周波数依存性があることが示唆された。
このような周波数依存性の神経指標は、SADにおける認知機能障害の理解や診断バイオマーカーの探索に有用であり、中心後回の異常活動は同疾患の神経基盤理解に寄与することが期待される。
周波数依存的な脳活動指標を用いた神経マーカー確立への寄与に期待
今回の研究では、安静時機能的MRIによるfALFF解析とCANTAB認知機能評価を組み合わせ、社交不安症(SAD)における周波数依存性の脳活動と認知機能との関連が検討された。その結果、SAD患者で中心後回を中心とする周波数依存性の脳活動低下が認められ、特にslow-5帯域での活動が弱いと認知機能が低下することに関連していることが明らかとなった。
「中心後回は体性感覚処理を担う重要な領域であり、この領域のfALFFの減少はSAD患者の感覚運動機能異常を反映していることが考えられるが、今回の発見であるslow-5帯域での活動の減弱と認知機能低下との関連は、不安症状との関連を含め今後明らかにしていく必要があるが、今後の診断バイオマーカーおよび治療戦略の開発に貢献すると考えられる」と、研究グループは述べている。
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