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新しい運動スキルの習得、「初期の方略」と「試行錯誤」が鍵-龍谷大ほか

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2025年12月18日 AM09:30

全身運動における「学習の個人差」が生じるメカニズムの解明へ

龍谷大学は12月1日、新しい運動スキルの習得には、学習初期に“選んだ動き方(方略)”が強く影響することを実証したと発表した。この研究は、同大経済学部の鈴木啓央講師、大阪体育大学スポーツ科学部の平川武仁教授、新潟医療福祉大学心理・福祉学部の山本裕二教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Psychology: Movement Science」に掲載されている。


画像はリリースより
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スポーツの指導場面において、同じような指導を行ったとしてもすぐに上手になる選手とそうではない選手がいることは、多くの指導者が経験することである。今回の研究は、この問題関心を出発点として、どのような要因が運動学習の個人差に影響を及ぼすのかを探った。

これまでの研究では運動学習の個人差について、ジャグリングや書字などの比較的小さい運動を対象に調べられてきた。そこでは、過去の運動経験や学習の初期段階で遂行される動作パターンなどがその個人差を生み出す要因になり得ることが確かめられてきた。しかし、全身を使う運動においては、その要因は明確にはなっていなかった。そこで研究グループは、運動学習において個人差が生じるメカニズムを解明することを目的に、全身を使う運動の一例としてキャスターボードを対象とし、初めて乗る参加者の学習過程を詳細に観察し、その個人差に注目した研究を進めた。

「同じ動作の反復」よりも「試行錯誤」が上達を早めると判明

キャスターボードは、連結した2枚の板にそれぞれ車輪が1個ずつ設置されている変形スケートボードで、倒れないようにバランスを取りながらも、2枚の板に交互に力を加えることで前進する乗り物である。

今回の研究では、キャスターボードに初めて挑戦する大学生7人を対象に、学習の初期から課題達成(約10mの円形コースを落下せず2周)までの動作を3次元動作解析で詳細に計測した。

課題達成に至るまでに要した試行数は、最小8回・最大135回と100回以上の違いがみられ、分析の結果、主に以下2つの知見が得られた。

1.習得が早い人と遅い人の違いは”最初に選んだ動き方”にある。

学習者は大きく2つのタイプに分かれ、「勢い型」よりも「捻転型」の方が、課題達成が明らかに早い傾向が見られた。「勢い型」は最初の蹴り出しで速度を上げて乗り切ろうとするタイプ、「捻転型」は肩の周期的な回旋により推進力を生み出そうとするタイプである。

2.上達には”同じ動作を繰り返す”よりも”試行錯誤の量”が重要である。

試行ごとの動作のばらつきを分析したところ、動作の変動性が高い(=いろいろ試してみる:試行錯誤)学習者ほど上達が早いことが判明した。これはスポーツ指導現場で一般的な「同じ動きを反復して固める(反復練習)」という指導観とは相対する結果であり、これにより、より効果的な運動指導への展開が期待される。

スポーツ・学校教育・リハビリなどに応用できる可能性

今回の研究は、従来の小さな動作(ジャグリングや書字など)を対象とした研究を超えて、全身を使う運動における学習過程を詳細に明らかにした点で新規性がある。

「”学習初期の方略選択””動作の変動性(試行錯誤の幅)”が習得速度に強く影響することを示した点から、スポーツはもちろん、学校教育やリハビリテーションなど、さまざまな学習・指導場面への応用可能性が見込まれる」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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