立つ・座る・歩く動作、反動をつけずにゆっくり実施を重視の「礼法」
東北大学は9月1日、礼法に基づくしゃがんで立つ動作を用いたトレーニングを3か月間実施すると、脚筋力が平均で25%以上向上することを確認したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科大学院生の小笠原彩香氏(研究推進時)、同大非常勤講師の佐藤明氏(研究推進時)、同大産学連携機構未来社会健康デザイン拠点長の永富良一教授(研究推進時:大学院医工学研究科)らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Tohoku Journal of Experimental Medicine」に掲載されている。

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筋力の低下は上半身よりも下半身で顕著に表れることが知られており、特に下肢の筋力は高齢者が自立して生活を続けるために欠かせない要素である。脚力を鍛えるための科学的に裏付けられたトレーニング方法は数多くあるが、時間や費用の負担が大きく、実際に継続するのは難しいという課題が残っている。日本ではかつて、正座や布団での就寝、和式トイレの使用など、日常の中で自然にしゃがむ動作が多くあった。これらは下肢を鍛える効果を持っていたが、生活の西洋化によって、椅子やベッド、洋式トイレの普及が進み、そうした動作の機会は大幅に減少した。一方で、日本には武士が受け継いできた「礼法」という動作様式がある。礼法では、立つ・座る・歩くといった日常の動作を、反動をつけずにゆっくりと行うことが重視されていた。これは一見効率の悪い動きに見えるが、足腰の力を保つ工夫でもあった。礼法は文化として受け継がれてきたが、その動きが筋力や体力に与える効果を科学的に検証した研究はこれまでなかった。
成人34人対象、1日5分の礼法群/コントロール群で脚力を評価
研究グループは、礼法を取り入れた簡単な運動が脚の筋力にどのような効果をもたらすかを検証するため、無作為化比較試験を行った。礼法の経験がない健康な20歳以上65歳未満の成人34人を、礼法トレーニング群(17人)と、普段通りの生活を続けるコントロール群(17人)に分けた。礼法トレーニング群は、1日5分程度の礼法を取り入れた運動を、週4日以上、3か月間続けた。内容は、椅子からの立ち座り動作を10回と、しゃがんで立ち上がる動作を10回行い、3週目以降は12回に増やした。いずれの動作も、礼法に基づいて上体を大きく前に倒さず、ゆっくりと一定の速度で行うのが特徴である。一方、コントロール群は特別な運動をせず、普段の生活を続けた。トレーニング前後には、膝伸展筋力を測定した。
3か月後、礼法群で平均25.9%の筋力向上
その結果、3か月後には礼法トレーニング群で平均25.9%の筋力向上が見られたのに対し、コントロール群は2.5%の増加にとどまった。このことから、礼法を取り入れたトレーニングは、短時間で簡単に実施できるにもかかわらず、脚の筋力を効果的に高める方法であることが示された。
高齢期の筋力低下予防の手段の一つとして活用に期待
今回の研究で、礼法を取り入れた短時間のトレーニングが脚力を効果的に高めることが示された。今後は、このトレーニングを高齢者になる前から脚の筋力を鍛え、高齢期の筋力低下を予防する手段の一つとして活用されることが期待される。椅子に座る、しゃがむという動きは日常生活でも繰り返し行う動作であるため、トレーニングとしてだけではなく、日々の生活の中に意識的に礼法を取り入れることで、無理なく脚力を鍛えることができると考えられる。また、同研究は、これまで十分に検証されてこなかった日本の伝統的な動作である礼法が健康に与える効果を科学的に評価した点に大きな意義がある。文化的価値と健康効果を兼ね備えた礼法は、国内のみならず海外からも注目される新しい健康資源となり得ると考えられる、と研究グループは述べている。
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