報道された自殺事件の特徴、自殺未遂患者の性別・年齢層ごとの入院数の変化は?
帝京大学は8月30日、自殺事件の報道が自殺未遂の発生に与える影響を解明したと発表した。この研究は、同大医学部精神神経科学講座の林直樹客員教授とリエゾン診療スタッフらの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS One」に掲載されている。

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メディア報道が自殺および自殺未遂の発生に及ぼす影響は従来からよく研究されており、センセーショナルな記述や過度の詳細さがリスクを高めることなどが明らかにされている。そしてそれらの所見は、報道ガイドラインの作成に役立てられている。しかし、自殺未遂患者の性別や年齢層が異なる場合の新聞報道の影響の違いについては、十分解明されていなかった。
そこで研究グループは今回、報道された自殺事件の特徴と、自殺未遂患者の性別・年齢層ごとの入院数の変化の関連について検討を行った。
自殺未遂患者数、自殺報道後に1週間平均入院数が約12%増加
研究の分析対象としたのは、大手主要新聞4紙の全国版および地域版(東京都区部北部)の朝刊および夕刊の2012年4月~2019年1月までの研究期間において報道された全ての自殺事件(676件)の計1,205件の記事、および同期間に帝京大学医学部附属病院高度救命救急センターで自殺未遂のために入院治療を受けた1,081ケース。
まず、報道ごとに発行前後1週間(報道日を含む発行に先立つ1週間と発行後1週間)の自殺未遂患者数の比較を行った。その結果、自殺報道後に1週間平均入院数の約12%増加していたこと(効果量r=0.14)などが示された。
特に「自殺手段」の報道が、特定の性別や年齢層の患者の増減と関連
さらに、自殺未遂患者の性別と年齢層の区分ごとの報道前後の入院者数の変化と、報道された自殺事故のタイプ(有名人自殺、殺人自殺、集団自殺)、自殺手段(8種)ごとの関連を統計学的モデル(ノンパラメトリック多変量分散分析の一種)を用いて解析した。その結果、報道された自殺手段についてのみ、性別と年齢層の区分ごとの自殺未遂患者数の変化との関連が有意であるという結果が得られた。
具体的には、銃器(拳銃や猟銃など)による自殺の報道は若年層の自殺未遂を減らす、ガス(主に練炭COガス)による自殺の報道は女性自殺未遂を増やし、男性自殺未遂を減らす、希少な自殺手段(入水や爆発物使用など)の報道は女性および若年層の自殺未遂を増やす、と解釈でき、この相違は、自殺事件の報道の受け手の社会文化的背景や心理学的特性による反応の相違によって生じたものと考えられた。
有名人のみならず、一般の自殺報道でもリスク上昇を防ぐ配慮が重要
日本でも、他の国と同様に報道ガイドラインの導入・普及が2000年頃より活発に進められているが、今回の研究により、現在でも報道が自殺未遂の増加に影響を与えていることが示された。
さらに、従来よく研究されていた有名人自殺や重大自殺事件ではなく、一般の自殺事件を含めた自殺報道全体を見ても、報道が自殺未遂の発生を増加していることが判明した。これは特別な自殺事件の報道だけでなく、一般の自殺報道でもリスク上昇を防ぐ配慮が重要であることを示している。
「本研究で明らかにされた新聞報道の受け手の性別、年齢層による影響の相違があるという知見は、それぞれのケースにおけるリスク対策を検討する際に役立てられる可能性のある所見と考えられる」と、研究グループは述べている。
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