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生物学的情報に基づく「ギャンブル障害判別器」の開発に成功-東京医歯大ほか

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2022年04月21日 AM10:45

生物学的情報に基づいたギャンブル障害診断のバイオマーカーが求められていた

東京医科歯科大学は4月15日、脳機能画像による安静時脳機能結合の情報を基にしたギャンブル障害の判別器を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科精神行動医科学分野の高橋英彦教授、京都大学大学院医学研究科脳病態生理学講座(精神医学)の村井俊哉教授、(ATR)・脳情報通信総合研究所の川人光男所長、量子科学技術研究開発機構(QST)・量子生命科学研究所の八幡憲明チームリーダーの研究グループによるもの。研究成果は、「Psychiatry and Clinical Neurosciences」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ギャンブル障害は、ギャンブルを止めることができず借金や失職や離婚など個人の社会生活に深刻な影響を及ぼすだけでなく、多額の横領などの事件や犯罪ともしばしば関連しており、社会全体に大きな影響を及ぼしている精神疾患。日本には従来、パチンコや競馬、競輪、競艇など多種のギャンブルが存在し、加えてIR整備推進法案成立に伴いカジノ産業が解禁される日が迫っており、ギャンブル障害対策が喫緊の課題となっている。ギャンブル障害は依存症の一つと考えられており、アルコールや違法薬物などの使用と関連する物質依存に対して、ギャンブル障害のような行動への依存は、行為依存と呼ばれている。ギャンブル障害の診断は、主に主観的な症状やギャンブルに関連する行動を基に行われる。しかし、ギャンブル障害患者は、主観的な症状やギャンブルに関連する行動を認めなかったり隠したりする傾向があるため、適切な診断が困難なケースが多いのが実状だ。そのため、臨床現場では生物学的情報に基づいた診断のためのバイオマーカーの出現が待たれてきた。

近年、MRIによる脳画像データを用いて精神疾患の特徴を理解しようとする研究が行われるようになり、なかでも安静時脳機能画像(rsfMRI)における安静時脳機能結合を患者と健常者において比較することで、精神疾患の神経基盤を探索する研究が盛んだ。ギャンブル障害においてもrsfMRI研究はいくつか行われているが、安静時脳機能結合の情報からギャンブル障害の診断のバイオマーカーとなる指標を取り出し、ギャンブル障害の診断を予測する研究はなかった。そこで研究グループは今回、人工知能技術を用いて、安静時脳機能結合の情報からギャンブル障害のバイオマーカーとなる指標を抽出し、ギャンブル障害の診断を予測する判別器の開発を試みた。

安静時脳機能結合の情報に人工知能技術を適用し、ギャンブル障害の判別器を開発

2台のMRI装置を用いて(装置1、2)、人工知能の訓練データとして合計161人(ギャンブル障害患者70人、健常対照群91人)の研究対象者からrsfMRIを収集し、各研究対象者の安静時脳機能結合を計算した(9,730本)。この情報に、ATR・脳情報通信総合研究所で開発された人工知能技術を適用。その結果、ギャンブル障害の診断に関わる15本の脳機能結合と、それぞれの結合の重み付けの情報から診断のためのバイオマーカーとなる数値的指標が算出され、ギャンブル障害の診断を予測する判別器が作製された。作製された判別器の訓練データにおけるAUCは0.89であり、高い判別性能を示した。

開発された判別器は、MRI装置の機種や撮像方法が異なっていても利用可

次に、作製された判別器の汎化性能を検証するための独立した外部データとして、訓練データの161人とは異なる20人(ギャンブル障害患者6人、健常対照群14人)の研究対象者のrsfMRIを訓練データとは別のMRI装置(装置3)を用いて収集し、安静時脳機能結合の情報に判別器を適用した。その結果、独立した外部データに対する判別器のAUCは0.81であり、独立した外部データに対して高い判別性能を示したため、判別器は汎化性能を有すると考えられた。

訓練データの収集に用いた2台のMRI装置と独立した外部データの収集に用いたMRI装置は3台とも機種が異なっており、撮像方法も異なっていた。したがって、同研究で開発されたギャンブル障害の診断の判別器は、脳画像データの収集のために用いるMRI装置の機種や撮像方法が異なっていても利用することができると考えられた。

ギャンブル障害の適切な診断や、依存症全般の脳における病態理解の一助となる可能性

今回の研究で開発された判別器により、主観的な症状やギャンブルに関連する行動によって行われているギャンブル障害の診断に生物学的情報に基づく判別という、新たな切り口が加わり、適切な診断の一助となることが期待される。

MRI装置にはさまざまな種類があり、撮像方法もさまざまなパターンがある。MRI装置の種類や撮像方法が得られる脳画像に与える影響は非常に大きいことが知られており、その影響は精神疾患による脳活動の変化に匹敵するとも言われている。同研究では、複数のMRI装置・撮像方法で収集した訓練データに革新的な人工知能技術を適用することで、画像データの収集に用いたMRI装置の機種/撮像方法に関わらず利用することができる判別器の開発に成功した。したがって、今後幅広い施設において判別器の使用が可能だ。また、同研究結果を直接的に利用するニューロフィードバックといった新規治療法の開発が期待される。

ギャンブル障害は行為依存に分類される依存症であり、アルコールや薬物の使用に代表される物質依存とは異なり、依存物質による直接的な脳へのダメージがない。今後、ギャンブル障害の判別器を各種物質依存に適用することで、依存症に共通する依存の本質的な脳の変化と、依存物質による脳へのダメージを切り分けなど、依存症全般の脳における病態の理解の一助になる可能性があると、研究グループは述べている。

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