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妊娠中の血清コレステロール値から、PDSのなりやすさを予測できる可能性-富山大ほか

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2022年02月14日 AM10:45

妊娠中の血清総コレステロール値と産後抑うつ症状に関連性はあるのか?

富山大学は2月10日、「子どもの健康と環境に関する全国調査()」のデータを用いて、妊娠中の血清総コレステロール(TC)値と産後抑うつ症状(PDS)との関連を調べた結果、妊娠中のTCの上昇が、PDSのなりにくさに関連する可能性が示唆されたと発表した。この研究は、同大医学薬学教育部生命・臨床医学専攻博士課程の陸田典和氏らのグループによるもの。研究成果は、「Acta Psychiatrica Scandinavica」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

最近の研究により、産後1か月および6か月における産後うつ病の有病率はどちらも10%以上と、高い水準であることがわかっている。また、これまでに、産後うつ病を有する女性は強い産後抑うつ症状(PDS)を有することが知られている。PDSと関連する因子としては、社会的支援や配偶者の有無、経済状況などの社会的要因に加え、ホルモン、ビタミン、脂質などの生物学的要因が注目されている。これまでの研究では、総コレステロール(TC)値とPDSとの関連を示唆する報告があったが、各研究の結果は必ずしも一致していなかった。

そこで研究グループは今回、PDSと関連する要因の1つとして、妊娠中の血清TC値および血清TCの変化量とエジンバラ産後うつ病質問票を用いて判定したPDSとの関連を調べた。

妊娠中期~末期のTC値の低さと産後6か月時点のPDSとの関連示唆、その他の時点では関連認められず

エコチル調査に参加した妊婦約7万2,000人を対象に、・妊娠中期~妊娠末期・出産時に非絶食下で採血してもらい、各時点の血清TC値を測定した。その数値をもとに、妊娠初期から妊娠中期~妊娠末期(A)、妊娠中期~妊娠末期から出産(B)、および妊娠初期から出産まで(C)の3期間の血清TC値の変化量を求めた。3時点の値および3期間の変化量に基づき、参加者を5群(最も少ない群Q1~最も多い群Q5)に分け、それぞれ産後1か月と6か月時点でエジンバラ産後うつ尺度を用いてPDSスコアを測定した。

今回の研究では、同スコアの合計9点以上をPDS有症者と評価。産後1か月では参加者の13.7%、産後6か月では11.1%がPDS有症者に該当した。この結果、血清TC値は妊娠中期~妊娠末期の測定に基づいた5群のうち、Q2群のみがQ1群と比べてPDS有症者の割合が上昇するという関連が示されたが、その他の群では、有意な関連は認められなかった。また、妊娠初期で測定した血清TC値および出産時点で測定した血清TC値でも同様に5群を検討したが、どの5群でもPDS有症者の割合は変わらなかったという。

妊娠中に血清TC値が上昇した群は、PDS有症者が少なくなる傾向

一般的に、血清TC値は妊娠初期から出産にかけて上昇することが知られているため、各時点での値ではなく、測定時点間の血清TC値の変化量との関連を調べた。この検討では2時点の変化量に基づいた5群を設定し、Q1とより変化量が大きかった群でPDS有症者の割合に違いがないかを検討した。その結果、妊娠中期~妊娠末期から出産(B)にかけての変化量と、妊娠初期から出産(C)にかけての2期間の変化量については、Q1と比べてTC値が上昇した群で、産後1か月時点でPDS有症者の割合が少ないことがわかった。

また、妊娠初期から妊娠中期~妊娠末期(A)と妊娠初期から出産(C)の2期間の変化量については、Q1と比べてTC値が上昇した群において産後6か月時点でPDS有症者の割合が少ないことがわかった。特に、妊娠初期から出産期間(C)の変化量での検討では、産後1か月および産後6か月のいずれにおいても、Q1と比べてTC値がより上昇した全ての群でPDS有症者が少ないという関連が認められた。全体的に、妊娠中に血清TC値が上昇した群はPDS有症者が少なくなる傾向が見られたことから、妊娠中の血清TCの変化を調べることによってPDSになる可能性のある集団を予測し得ることが示唆された。

これまで周産期や産後のTC値低下とPDSとの関連について報告した研究はあったが、同研究が、妊娠中の血清TC値の変化量とPDSとの関連を示した初めての研究となる。

TCとPDSとの因果関係を明らかにするためには、さらなる研究が必要

妊娠中の血清TC量が上昇するとPDS有症者の割合が少なくなるという今回の研究結果から、妊娠期から出産時までのTC量の変化を追跡することで、PDS有症者となるリスクのある妊婦を早期にスクリーニングできる可能性が示唆された。

しかし、同研究は観察研究であり、TCとPDSとの因果関係が明らかにできたわけではない。また、「スクリーニングテストであるエジンバラ産後うつ病質問票を用いたPDSの評価のみではなく、精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)などを用いた産後うつ病の診断にも着目すべき」「データセットの中から期間中に採血できなかった人や産後うつ尺度を含む必要な回答が得られなかった3万人以上の妊婦を除外しているため、何らかの偏りが否定できない」「研究対象者を日本在住者に限定しているため、今回の結果がそのまま他国や他人種に適用できるかは不明」「採血のタイミングによる影響(非絶食下での採血による食事の影響、産後72時間で急激に妊娠初期レベルに戻る血清TC値のピーク時を逃している可能性)を否定できない」などの点からも、さらなる研究が望まれる。これらの他にも、うつ病に対する作用機序が異なるLDLコレステロールとHDLコレステロールといったTCの各構成成分の変化や、妊娠中の脂質増加を引き起こす女性ホルモン濃度、ストレスやセロトニン、神経炎症などに着目することで、コレステロールと産後うつとの関連メカニズムがより明確になる可能性がある。

「今後、さらなる研究を重ねて因果関係を明らかにすることで、妊婦健診時と出産時のTC値からPDSを示しやすい人を事前に予測し、産後のサポートに活かすことができるかもしれない」と、研究グループは述べている。

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