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宇宙滞在で「抗酸化能」が低下する可能性、帰還マウスの解析で判明-筑波大ほか

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2021年12月06日 AM11:45

宇宙長期滞在で肝障害はなぜ起こる?

筑波大学は11月29日、宇宙に行ったマウスの肝臓内では、、グルタチオンなど還元的な硫黄化合物の量が減少していることがわかったと発表した。この研究は、同大生命環境系の大津厳生准教授、株式会社ユーグレナの鈴木健吾氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより

宇宙環境は、さまざまな面で地球上と異なっている。大気や重力がないことはもちろんのこと、宇宙線と総称される多種多様な放射線が飛び交い、寒暖差も200℃以上(マイナス120℃~100℃ほど)あるとされる。宇宙開発が加速し、民間での宇宙飛行も夢物語ではなくなった昨今においては、過酷な宇宙環境が生物の体にどのような影響を与えるのかをより詳しく調べる必要がある。すでに、宇宙飛行が肝臓に悪影響を及ぼすことが知られており、宇宙空間で長時間生活すると、肝臓の線維化や非アルコール性脂肪肝などの肝障害が引き起こされる。これらの現象が酸化的なストレスによって引き起こされている可能性は報告されていたが、具体的に体内でどんなことが起きているかなどについては明らかになっていなかった。

生体内の酸化還元状態は、体内にあるさまざまな硫黄化合物を網羅的に解析することにより明らかにすることができる。これは、硫黄がその酸化数を-2から+6まで変化させながら酸化還元反応の中心を担う性質に由来する。研究グループは、硫黄が持つこの性質に着目し、生体内の硫黄化合物を網羅的に解析する手法「サルファーインデックス解析」を独自に開発した。これは、質量分析をベースとした定量的な解析手法で、生体内の硫黄化合物種の存在量を網羅的に解析するもの。還元的・酸化的な硫黄化合物それぞれの存在比を測り、対象とした生体サンプルが酸化的なのか還元的なのかを明らかにすることができる。

重力の有無によらず宇宙飛行マウスの肝臓では主要な還元的硫黄化合物量が減少

今回、研究グループは、宇宙飛行したマウスの肝臓に対してサルファーインデックス解析を行い、肝臓内で何が起きているのかを調べた。研究にあたり、宇宙航空研究開発機構()の協力を受け、2種類の宇宙飛行マウスの肝臓を譲り受けた。国際宇宙ステーションにおいて「無重力下で飼育したマウス」と、同じく「地球同等の人工重力下で飼育したマウス」だ。これら2種類の肝臓と、地上で飼育したマウスの肝臓をそれぞれサルファーインデックス解析により分析。飼育実験は、地球軌道上にある国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」内で実施した。人工重力は、「きぼう」内にあるMARSを用いた、回転による遠心力によって与えた。

解析の結果、宇宙飛行を経験したマウスの肝臓では、地上で飼育したマウスと比べ、システインやエルゴチオネイン、グルタチオンなど主要な還元的硫黄化合物量が減少していることがわかった。この減少は人工重力の有無にかかわらず発生していた。これらの硫黄化合物は、体内の抗酸化に寄与することが知られており、酸化ストレスによるダメージから体を守るために消費される。この結果により、重力の有無にかかわらず、宇宙飛行がマウスに強い酸化ストレスを与えることが確認された。

また、肝臓における遺伝子の発現状況についても調べたところ、宇宙飛行をしたマウスでは酸化ストレスへの抵抗性や硫黄の代謝に関連する遺伝子群の発現が増加していることがわかった。これは、減少した硫黄化合物を再供給するために、それらを合成する酵素を増やそうとしたと考えられる。

エルゴチオネイン摂取などを考慮した新たな宇宙食の開発に期待

研究グループは、今後も生体内の抗酸化活性に関する研究を継続していくとしている。今回の研究により、宇宙飛行すると、生体内で抗酸化に寄与する硫黄化合物が減少していることが明らかになった。このことは、宇宙での健康維持に硫黄系抗酸化物質の摂取が有効である可能性を示すもの。今回の研究で特に重要なのが、宇宙飛行によってエルゴチオネインの量が地上での生活時の約半分に減ることが明らかとなったことだという。エルゴチオネインは哺乳類の体内では合成できず、一部のキノコなどから微量に摂取するしかない物質。通常の宇宙生活において、減少したエルゴチオネインを既存の宇宙食のみで摂取することは難しく、「今回の研究成果が新たな宇宙食の開発指針となることが期待される」と、研究グループは述べている。

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