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精神神経疾患関連分子「リーリン」が、神経細胞の集合と停止を制御する仕組みを発見-慶大

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2020年06月17日 AM11:15

精神神経疾患関連分子「」と結合して働くVLDLRとApoER2の違いは?

慶應義塾大学は6月16日、脳の形作りを制御し、さまざまな精神神経疾患との関連が示唆されている分子「リーリン」が、脳の形成過程において、神経細胞のVLDLR受容体に作用することで神経細胞を適切な位置で停止させ、神経細胞を正しく配置させることを、同受容体欠損マウスを用いて明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部解剖学教室の廣田ゆき専任講師と仲嶋一範教授によるもの。研究成果は、「Development」誌オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

脳が作られる際に、神経細胞は脳の深部の脳室と呼ばれる空間に面した場所で誕生し、脳の表層に向かって移動する。移動している神経細胞は、環境からさまざまな情報を受け取りながら、正しい場所へと配置されることが知られている。脳の最表層に豊富に存在する細胞外糖タンパク質リーリンは、さまざまな精神神経疾患との関連が知られており、移動する神経細胞に働きかけてその移動をコントロールする働きをもつ。リーリンを完全に欠損したヒト患者では、脳のしわが失われる滑脳症となり、重篤な小脳形成不全も呈する。リーリンは2種類の受容体と結合して働くが、これら受容体の機能の違いについては解明が遅れていた。

研究グループはまず、2種類の受容体が別の機能を持つのかを調べるために、リーリンを人為的に本来とは異なる場所で(異所的に)発現させる実験系を用いた。研究グループは以前に、形成途中のマウス脳にリーリンを人為的に発現させると、神経細胞はその異所的に発現したリーリンの周囲に集まって細胞凝集塊を作ることを見出していた。その際、神経細胞はリーリンが濃縮して存在する中心部分には侵入せず、その周囲に規則正しく整列して凝集塊を作る。リーリンの受容体のうちApoER2を欠損したマウスでリーリンを人為的に発現させると、神経細胞はリーリンに反応せず集合しないことを報告していた。

同一の分子が「神経細胞の集合」と「配向決定」を2種類の受容体を使い分けでコントロール

今回の研究では、もう1つの受容体であるVLDLRを欠損したマウスを用いて調べたところ、神経細胞はリーリンに反応して集合するものの、正しい位置に停止できず、不規則に並ぶことがわかった。また、VLDLRを欠損したマウスの発生過程の脳でも、神経細胞が本来停止すべき位置で停止せずそれを越えてしまうことも判明。これらの結果は、リーリンが神経細胞に対して、まずApoER2を介して集合させ、次にVLDLRを介して正しい位置に留まらせて整列させることを示しており、同じ分子が2種類の受容体を使い分けることで別の働きをしていることが明らかになった。

神経細胞が適切に移動して脳を形作るためには、多数のステップが厳密にコントロールされることが不可欠であり、その各ステップの破綻は重篤な疾患を引き起こす。これまでの研究では、リーリンの2種類の受容体は同じ機能を重複して持っていると考えられていたが、今回の研究ではそれが覆され、同一の分子が神経細胞の集合と配向決定という別個の重要なステップを、2種類の受容体を使い分けることによってコントロールしていることが明らかとなった。

今後、受容体の使い分けを可能にする仕組みを解明することで、脳作りの基盤の理解につながると期待される。さらに、神経細胞の配置異常が背景に存在するとして注目されている各種精神神経疾患の新たな病態の解明や治療法の開発に貢献する重要な知見となると考えられる。

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