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インフル感染粘液に、アルコール系消毒剤の効果が弱い仕組みを解明-京都府医大

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2019年09月25日 PM12:00

有機物以外の消毒薬の効果減弱因子は同定されていない

京都府立医科大学は9月19日、インフルエンザ感染患者由来の感染性粘液に対してアルコール系消毒剤の有効性が低下するメカニズムを解明し、さらに現行の手指衛生の効果が低下する状況を特定したと発表した。この研究は、同大学大学院医学研究科 消化器内科学の廣瀬亮平助教、伊藤義人教授、感染病態学の中屋隆明教授ら研究グループによるもの。研究に関する論文は、科学雑誌「mSphere」のオンライン速報版に9月18日付で掲載され、同日、米国微生物学会より同研究の紹介が公開された。


画像はリリースより

季節性インフルエンザAウイルス(IAV)による例年のアウトブレイクは、多大な人的および経済的被害をもたらしており、伝播の予防は感染管理にとって重要な問題だ。感染性体液中に含まれる有機物による消毒薬の効果減弱については、すでに広く知られ、消毒薬効果評価基準にも考慮されている。喀痰などの感染性粘液中の病原体に対するエタノールベース消毒剤(EBD)など消毒薬の効果について評価・議論した論文はいくつか見受けられるが、有機物以外の消毒薬の効果減弱因子は同定されておらず、少なくとも現行の手指衛生・接触感染予防では病原体の殺菌不活化に不十分であることは報告されていなかった。

一方で、廣瀬助教らの研究チームは以前、粘弾性などの粘液の物理的要因により粘液中のIAVが外部環境から保護される可能性について報告している。今回の研究はその延長として、物質移動現象の概念を利用して、粘液中のIAVに対するEBDの有効性が大幅に低下することを実証し、この低下の原因となるメカニズムおよび低下が起こりうる状況を明らかにした。

感染性粘液の物理的性質による拡散・対流現象の低下が原因

研究グループは、IAVに感染した患者の上気道由来粘液を使用して、IAVの不活化試験とエタノール濃度測定を実施。さらに臨床研究を行い、EBDを使用した手指擦り込みによる手指衛生(AHR)および流水による手洗いによる手指衛生(AHW)の有効性を評価した。感染性粘液の物性解析では、粘液は生理食塩水に比して粘度は非常に高く、シュードプラスチック流体の特性を示すハイドロゲルだった。ヒドロゲルとしての粘液の物理的性質のために拡散/対流の速度が遅くなることが原因で、「エタノール濃度がIAV不活性化レベルに達する時間」および「EBDがIAVを完全に不活性化するのに必要な時間」は、生理食塩水条件下より粘液条件下の方が約8倍程度長い結果になったという。

実際の手指衛生の効果評価では、粘液中のIAVに対するEBDの有効性が生理食塩水中のIAVと比較して極端に低下することを示した。生理食塩水中のIAVは30秒以内に完全に不活性化されたが、粘液中のIAVは、120秒間のAHRにもかかわらず感染力を維持したままだった。このことは現行のAHRでは感染性粘液を完全に不活化することは難しいことを示している。一方で、感染性粘液が完全に乾燥し固形化するとヒドロゲルの特性は失われ、消毒効果の低下は生じないことも明らかになった。具体的にはAHRは、粘液が完全に乾燥した条件においては30秒以内に粘液中のIAVを不活性化。さらに、物理的に感染性粘液を洗い流すAHWは、30秒以内にIAVを不活性化した。感染性粘液が手指などの体表に付着して完全に乾くまでの間は(研究では約30~40分間と想定)、EBDを使用した適切なAHR施行後でも感染力を維持した病原体が体表に残存し、周囲に感染が広がるリスクがあることが明らかになった。

これらの研究成果は、現行の手指衛生・接触感染予防の脆弱性を明らかにするもの。「今後その脆弱性の克服を進めることによって、より効果的な消毒剤/手指衛生法の開発ならびにインフルエンザアウトブレイクの効果的な予防法構築につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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