超迅速遺伝子検査が脳腫瘍の手術の助けに
慎重を要する脳腫瘍患者の腫瘍の摘出で、実験段階にある超迅速遺伝子検査が外科医の助けとなることが、米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医学部神経外科・病理学准教授のDaniel Orringer氏らによる新たな研究で示唆された。この検査では、組織標本中のがん細胞の量を15分以内に測定することができる。これは、患者が手術室にいる間に外科医がフィードバックを得るのに十分な速さだ。また、腫瘍辺縁部の1mm2当たり5個未満という低密度のがん細胞も検出可能であるという。詳細は、「Med」に2月25日掲載された。

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Orringer氏らは、「その迅速性と正確性から、脳腫瘍の手術中にリアルタイムでがん細胞を検出できる、この種のものとしては初の実用的なツールになる」と結論付けている。Orringer氏は、「脳腫瘍をはじめとする多くのがんにおいて、がんの手術の成功と再発の予防は、できる限り安全に腫瘍とその周囲のがん細胞を切除することが前提となる」とNYUのニュースリリースの中で述べている。
この検査は、超迅速ドロップレットデジタルPCR(超迅速ddPCR)と呼ばれるものだ。ddPCRは、ターゲットとするDNAやRNAを高精度で定量化する技術であるが、通常、結果を得るまで数時間かかる。
超迅速ddPCRの開発にあたり研究グループは、標準的なddPCR検査を構成する各ステップの効率性を追求した。例えば、腫瘍標本からDNAを抽出するのに必要な時間を30分から5分未満に短縮した。また、検査に使用する化学物質の濃度を上げることで効率性を高め、一部の工程の所用時間を2時間から3分未満に短縮した。さらに、単一の反応容器でPCRに必要な2種類の温度を調整するのではなく、それぞれの温度に合わせて事前に温めた2つの反応容器を使用することで、時間の節約を実現した。このようにして開発された超迅速ddPCRでは、結果を得るまでに要する時間はわずか15分だという。
Orringer氏らは、NYUランゴン校の22人の患者から採取した75点以上の組織標本を用いて超迅速ddPCR検査を実施した。患者は全員が脳腫瘍の一種である神経膠腫の摘出手術を受けていた。検査では、低悪性度神経膠腫やメラノーマで見られることの多い2種類の遺伝子変異(IDH1 R132H、BRAF V600E)のレベルが測定された。その結果、超迅速ddPCR検査の結果は、標準的なddPCR検査による結果と一致することが確認された。
Orringer氏は、「超迅速ddPCRがあれば、外科医はどの細胞ががん化しているか、また特定の組織部位にどの程度の数のがん細胞が存在するかを、これまでにない精度で判定できるようになる可能性がある」と言う。
論文の上席著者であるNYUグロスマン医学部の人類遺伝学・ゲノム学センターのGilad Evrony氏は、「われわれの研究から、超迅速ddPCRが脳腫瘍の手術中に分子診断を行うための迅速かつ効率的なツールとなり得ることが明らかになった。この検査は、脳腫瘍以外のがんにも使用できる可能性がある」とNYUのニュースリリースの中で述べている。
次のステップは、超迅速ddPCRを自動化し、手術室での使用をより迅速かつ簡便にすることであると、研究グループは述べている。また、この検査を他の種類のがんに対応させる計画もあるという。ただし、この検査が広く利用できるようになるまでには、さらに改良を重ね、臨床試験で検討される必要があると、研究グループは注意を促している。
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・Ultra-rapid droplet digital PCR enables intraoperative tumor quantification

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