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脳卒中患者の物体把持動作に「感覚フィードバック」が重要と判明-畿央大ほか

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2024年04月30日 AM09:00

運動制御方略と計測・解析方法を臨床に応用する新規アプローチを開発

畿央大学は4月20日、運動出力の調節に「感覚フィードバック」が重要なことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院博士後期課程/摂南総合病院の赤口諒氏、森岡周教授、国立障害者リハビリテーションセンター研究所・神経筋機能研究室の河島則天室長(畿央大学客員教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Clinical neurophysiology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

脳卒中後に生じる手指の麻痺や動作の拙劣さは日常生活の利便性に直結するため、手指機能の改善はリハビリテーションの主要な目標となっている。軽度の運動麻痺にも関わらず、感覚障害が原因で動作が不器用になる脳卒中患者は決して少なくない。そのため、手指を用いた物体の把持動作において、感覚フィードバックがどのように影響するかを理解することは、その背景メカニズムを探る上で重要だ。物体把持時の力の調節は、感覚フィードバックに基づく運動制御の一般的なモデルとして、長年にわたって研究されてきた。しかし、リハビリテーション分野で広く用いられている臨床的アウトカム尺度は、主に四肢運動の運動学的特性(例:Fugl-Meyer AssessmentやAction Research Arm Test)に焦点を当てており、運動制御戦略(例:把持力制御)には焦点が当てられていない。

このギャップを埋めるため、研究グループは把持力計測装置を使用し、既存の研究で明らかにされた制御方略と計測・解析方法を臨床に応用する新しいアプローチを開発した。さらに慢性期脳卒中患者の把持力調節の特徴把握のため、「物体重量に応じた力調節」「動作安定性」「予測制御」の3つの観点から評価した。

慢性脳卒中患者の物体把持力制御能は、感覚障害の影響を大きく受けると判明

その結果、脳卒中患者が物体を把持する際に過剰な力を発揮し、動作が不安定で、予測制御が停滞していること、さらにはこれらの特徴が、運動麻痺よりも感覚障害の影響を強く受けることを明らかにした。この研究に用いている計測装置は、臨床現場で活用可能なシンプルなもので、かつ臨床評価の一環として取得・集積したデータを分析することで得られた知見であることに大きな意義があると考えられる。

手指による物体の把持動作の円滑な遂行には、行った動作(運動出力)とその結果(感覚フィードバック)を照合・修正するプロセスが重要だ。感覚情報に基づく運動調節は、動作実行中のオンライン制御だけでなく、運動の結果として得られた誤差情報を次の動作に修正・反映させるオフライン制御(予測制御や運動学習の基となる内部モデルに基づく運動制御)に大別される。同研究では、運動制御における感覚フィードバックの重要性に焦点を当て、「物体重量に応じた力調節」「動作安定性」「予測制御」の側面から分析するため、3つの課題を設定して把持力を計測した。

感覚障害を持つ症例の動作の不器用さや過剰出力は、予測制御の困難さが一因の可能性

研究では、麻痺側の手指で物体を把持できる脳卒中患者24人を対象とした。運動麻痺はFugl-Meyer Assessment、感覚障害はSemmes Weinstein Monofilament Testで評価。把持力計測は、前記3課題を実施し、得られた把持力および加速度データを用いて、「物体重量に応じた把持力の感度特性(回帰式のゲイン・切片)の評価」「安定把持局面の加速度パワースペクトル解析による把持安定性」「物体把持下での上下動作時の把持力と負荷力のカップリングの程度」について、相互相関解析による評価を行った。

全課題を通して、把持力は健側と比べ患側で有意に大きく、この結果は重量に応じた把持力の変化を示す回帰式の切片における有意な増加に反映されている。把持動作時の安定性は患側で乏しく、30秒間の静止把持課題時の加速度スペクトル密度の振幅と低周波シフトにその特徴が表れている。また、動的把持課題の把持力と負荷力の相互相関係数は、健側に比べて患側で低い値を示した。

これらの特徴は感覚障害との関連性が高く、感覚障害が重度であるほど過剰な出力が生じ、物体の把持安定性が失われ、予測制御が損なわれる傾向が示唆された。感覚情報は動作逐次のフィードバック制御だけでなく、結果を次の動作に活かす「内部モデルの更新」にも不可欠だ。したがって、感覚障害を持つ症例の動作の不器用さや過剰出力は、単なる実行エラーではなく、予測制御の困難さが一因である可能性を示唆している。

把持力制御の評価が、脳卒中患者の手指機能障害メカニズム理解につながる可能性

把持力計測は単に運動出力の調節を検討するだけでなく、感覚情報を手掛かりとしたフィードバック制御や予測制御の成否を把握することを可能にする。運動制御のどの側面に停滞が生じているのかを感覚障害との関連から見極めた上で適切な課題設定や動作指導を行うことができれば、残存機能を最大限に活用した動作獲得を目指す上での足掛かりとなる可能性があり、高い臨床的意義を持つものと考えられる。

今回用いたデータは、実験計画を立てた上での研究目的のデータ取得ではなく、通常臨床における症状の特性評価を目的として実施したデータを一定数集積後に事後的に分析したものである。すでに研究レベルで得られている知見を臨床評価に応用し、リハビリテーション臨床における症状特性把握に活かすことは極めて重要と考えられる。

なお、同研究で使用された把持力計測装置は、国立障害者リハビリテーションセンター研究所・神経筋機能障害研究室の研究成果をもとに、株式会社テック技販がすでに製品化している。

「今回の研究で明らかにしたような、評価的観点からの試みに加え、感覚障害由来の動作拙劣さを呈する脳卒中患者に対して、どのようなリハビリテーション介入を行うことで手指機能の改善につなげられる可能性があるのかという視点での介入的観点での取り組みを進めており、把持力計測を用いてその効果検証をするための介入研究を進めている」と、研究グループは述べている。

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