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東京大学の研究グループ マウスでナノDDSによる難治性膵がんの標的治療効果を実証

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2013年09月13日 PM10:25

自然発症固形がんで初めてDDSの有効性を確認

・大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻 大学院医学系研究科・疾患生命工学センター・臨床医工学部門の片岡一則教授らの研究グループが、9月4日、自然発症の膵がんマウスにおいて、ナノDDSを用いた標的治療に成功し、その効果を実証したと発表した。

ターゲットとなる細胞や組織のみに薬剤を到達させ、効果的に放出させるシステムであるDrug Delivery System()を用いたがんの標的治療は、近年、副作用を示すことなく優れた治療効果をもたらす画期的な治療法として注目を集めている。

これまでDDSの効果の実証は、外科的に腫瘍を移植してがんを発生させた事例で多数行われ、血管壁の透過性亢進と未発達なリンパ系の構築に基づくEnhanced Permeability and Retention(EPR)効果でその集積メカニズムが説明されているが、自然発症固形がんにおいて有効性を実証した例はなかった。

(画像はwikiメディアより引用 参考イメージ)

遺伝子改変マウスで実証、難治性膵がんの治療法実現に期待

研究グループでは、難治がんである膵がんを自然発生する遺伝子改変マウスを用い、高分子材料の自己組織化によって形成される高分子ミセル型DDSの有効性を検証。その結果、白金抗がん剤を内包した高分子ミセルが、がん細胞に対し効果的に集積し、優れた治療効果をもたらすことが確認されたという。

治療実験では、とくにフリーの白金抗がん剤を用いた場合、抑制効果が見られなかった肝臓や小腸への転移およびがん性腹水を完全に抑制し、生存期間を有意に延長させることが示された。フリーの白金抗がん剤治療では、70日後のマウス生存率が20%以下であったのに対し、抗がん剤内包高分子ミセルの治療では、全匹が生存していた。治療効果は血中腫瘍マーカー(CA19-9)の減少でも確認されている。

この研究結果は、自然発症の膵がんマウスを用いており、より実際のヒトのがんの状態を反映するモデルにおけるDDSの有効性が実証された点で、大きな意義があると説明。現在、この白金錯体抗がん剤内包ミセルによる、実際の膵がん患者を対象とした臨床試験も進行中であるという。

膵がんは有効な診断・治療法が確立されておらず、生存率の低い難治がんであるが、研究グループでは、今後この研究成果が画期的な治療法の実現に繋がることを期待するとしている。なお、この研究結果は、米国科学アカデミーの総合学術雑誌である「PNAS」6月25日公開分に掲載された。(紫音 裕)

▼外部リンク

東京大学工学部 研究報告
http://www.t.u-tokyo.ac.jp/epage/release/2013/

PNAS 該当研究報告
http://www.pnas.org/content/early/2013/06/25/

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