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アルツハイマー病の悪性化にタンパク質「CAPON」が関わることを発見-理研

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2019年06月06日 AM11:30

アミロイド病理からタウ病理形成、神経細胞死への遷移機構を解析

理化学研究所は6月4日、「CAPON」というタンパク質がアルツハイマー病の悪性化に関わることを発見したと発表した。この研究は、理研脳神経科学研究センター神経老化制御研究チームの橋本翔子基礎科学特別研究員、斉藤貴志副チームリーダー、西道隆臣チームリーダーらの研究チームによるもの。研究成果は、英国のオンライン科学雑誌「Nature Communications」に6月3日付で掲載された。


画像はリリースより

アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病、AD)は、認知症患者のうち半数以上を占めるため、早急な治療・予防法の確立が求められている。ADの病理形成機構として、「アミロイドカスケード仮説」が支持されている。この仮説は、脳内の神経細胞外でアミロイドβペプチド(Aβ)が凝集・沈着する老人斑(アミロイド病理)が引き金となって、微小管結合タンパク質のひとつであるタウタンパク質がリン酸化を受け、細胞質中で線維化・凝集する神経原線維変化(タウ病理)が形成され、神経細胞死に至るというもの。しかし、アミロイド病理からタウ病理形成、神経細胞死への遷移機構は不明だった。

西道チームリーダーらは、2014年にノックイン技法を用いて、アミロイド病理を再現する「App NL-G-Fノックイン(KI)マウス」という新しいADモデルマウスを作製していた。そこで今回、研究チームはこのマウスを用いて、タウ病理形成、神経細胞死への遷移機構の解明を試みた。

アミロイド病理下でCAPONが海馬に蓄積

研究チームはまず、タウ病理形成に関わるタンパク質を調べるために、インタラクトーム解析を行った。その結果、CAPON(C-terminal PDZ ligand of nNOS)というタンパク質がタウタンパク質に結合することを発見した。CAPONはnNOS(神経型一酸化窒素合成酵素)と結合し、NMDA受容体を介した興奮毒性などに関わることなどが知られていたが、ADにおける機能は不明だった。

そこで、アミロイド病理を再現するApp NL-G-F KIマウスの脳において、CAPONの発現を解析したところ、海馬の錐体細胞層にCAPONが蓄積していることが判明。AD患者の脳でも同様であると報告されていることから、アミロイド病理下におけるCAPONの海馬での蓄積がその後のAD病理に影響を及ぼすと考察された。

CAPONはタウ病理、神経細胞死を誘導する重要な因子

次に、マウスでヒトの脳と同じ様式でタウタンパク質を発現するMAPT KIマウス(ヒト型タウKIマウス)を作製。そして、App NL-G-F KIマウスとMAPT KIマウスを掛け合わせたダブルKIマウスにおいて、アデノ随伴ウイルスベクターを用いてCAPONを過剰発現させた。すると、タウ病理および神経細胞死が誘導され、海馬が萎縮することがわかった。さらに、どのような機構で神経細胞死が誘発されるのか調べたところ、アポトーシス(プログラム細胞死)のマーカーだけではなく、パイロトーシス(炎症性細胞死)のマーカーも上昇を確認。このことから、単一の経路ではなく、複雑なメカニズムを経て神経細胞死が誘発されると考えられた。

また、タウ病理と神経細胞死を再現するP301S-タウトランスジェニックマウス(P301S-Tau-Tg)において、CAPON遺伝子をノックアウト(欠損)すると、脳の萎縮が抑制されることが判明。以上の結果から、CAPONはアミロイド病理下において、タウ病理、神経細胞死の促進に重要な役割を果たす因子であることが明らかとなった。研究グループは「今後、新たなCAPONの機能を阻害するような薬剤(手法)が開発されれば、アルツハイマー病の新しい治療法になると期待できる」と、述べている。(QLifePro編集部)

 

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