
■コース選択が試金石に
6年制薬学教育がスタートし、臨床に強い薬剤師の養成が大きな目的とされる一方、学力・研究力の低下や大学院生の減少など様々な問題も指摘されてきた。岐阜薬大は、こうした6年制薬学教育の問題を解決するためには、「研究に重きを置く新6年制しかない」(稲垣氏)と判断。4年制課程の学生に薬剤師国家試験の受験資格を特例で認める経過措置が2018年度で終了することから、全国に先駆け4年制を廃止して6年制一本化に踏み切った。
新6年制の感触について、稲垣氏は「学生のレベルが上がり、受験生の受け止めもいいと思う。優秀な学生が集まってきている」と手応えを語る。特に最近は大学の助教など、アカデミアに進学する学生が増えているほか、社会人大学院生の増加傾向が見られる。
稲垣氏は、「薬剤師の地位を上げるためには、博士号は必要だと思う。一度、社会に出て現場で働く中で新たな問題に直面し、研究したいと博士課程に戻ってくる社会人が多くなっている」と話す。
稲垣氏が6年制一本化を主張し続けてきた背景には「薬剤師資格を持った研究者こそが薬学部出身の研究者である」との強い信念がある。人の健康を理解し、患者の声に耳を傾け、それに応えるためにどのような医薬品が必要とされているのか――。こうした視点の研究は、薬剤師資格を持った薬学研究者しかできないと強調する。
岐阜薬大では、企業の出資による寄附講座も増えている。それだけ社会の研究ニーズが高まってきているとも言え、稲垣氏は「研究に重きを置く大学の方針に社会の動きが合致してきている」と自信を深める。
今年4月からは、国立大学の阪大薬学部が6年制に一本化した新たな薬学教育をスタートさせ、岐阜薬大に追随する動きを見せた。稲垣氏は「阪大が踏み切ったことは非常に大きい」と歓迎。「ぜひこれからも追随する大学が出てきてほしいし、チャレンジしてもらいたい」とメッセージを送っている。
一方、もう一つの大きな課題は博士課程に進学する大学院生の確保だ。稲垣氏は「6年制課程を卒業した後、引き続き大学院で研究してくれる学生を確保しなければいけない」と指摘する。特に国公立大学は税金が投入されているため、博士課程を修了した学生が製薬企業の研究所で創薬に取り組んだり、大学の教員として次世代の研究者を育成することが義務と考えるからだ。
国公立大学の6年制の博士課程はほとんどが定員割れしていると言われ、薬学関係者からも危機感が表明されている。稲垣氏は「博士課程に進学する大学院生を確保するためには、奨学金など経済的な支援が必要。この課題も新6年制の仕組みを定着させていけば、解決できるのではないか」との考えを示す。
岐阜薬大は、27年度にキャンパス統合を予定している。「キャンパスが統合すれば、もっと研究が進み、より6年制一本化の効果が出る」と稲垣氏。今年度の後期には、新6年制の3回生が初めてコース選択を行う重要な局面が訪れる。研究者を目指す創薬育薬コースをどれだけの学生が選択するのか。今年は一つの勝負の年になる。