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下水の疫学調査は新型コロナの地域の感染状況把握に有用な可能性-北大ほか

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2020年05月15日 PM12:45

下水調査でウイルス遺伝子が追跡できれば、症状の有無に関わらず流行状況が評価可能

北海道大学は5月14日、新型コロナウイルスの下水中における存在実態に関連して現在までに得られている知見を体系的に整理し、新型コロナウイルス感染症()の流行状況を把握する上での下水疫学調査の有用性を提唱する総説を論文報告したと発表した。これは、同大大学院工学研究院の北島正章助教と山梨大学大学院総合研究部の原本英司教授らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「Science of the Total Environment」に掲載されている。


画像はリリースより

新型コロナウイルスの世界的感染流行は、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態となっている。主な伝播経路はヒト-ヒト間での飛沫感染や接触感染とされているが、最新の知見によると、下水中にウイルス遺伝子が存在し得ることが明らかとなってきている。そのため、下水疫学調査を特定の地域における新型コロナウイルスの侵入、流行状況、分子疫学および流行収束の判断材料として利用できる可能性がある。また、新型コロナウイルスは不顕性感染を引き起こすことが知られており、主に有症者のみを対象とする臨床検査では真の流行状況を把握することが困難である。一方、下水調査では、感染者の症状の有無に影響を受けず感染流行状況を評価することが可能だ。

そこで、研究グループは、感染者の糞便や下水からの新型コロナウイルスの検出状況、感染流行状況を把握するための下水疫学調査の有用性、コロナウイルスの環境水中での動態、下水中のウイルスの検出法およびリスク評価法等について、関連する200以上の文献を精査し、現在までに得られている知見を体系的に整理した。

米・仏・豪などで下水から新型コロナウイルス遺伝子を検出

COVID-19患者の一部で下痢症を含む胃腸炎症状が認められ、新型コロナウイルスが腸管で増殖する可能性が報告されている。また、数多くの研究により、不顕性感染者を含む新型コロナウイルス感染者の糞便中からウイルス遺伝子が検出されることがわかってきている。これまでにオランダ、、オーストラリアから相次いで下水からの新型コロナウイルス遺伝子の検出が報告されている。これらの結果をまとめると、未処理下水中のウイルス遺伝子濃度は最大で1Lあたり106遺伝子コピー以上。処理下水中からもウイルス遺伝子が検出されることがあり、その濃度は最大で1Lあたり105遺伝子コピー近くに達する。米国からの最新の報告では、下水疫学調査により公衆衛生的介入(外出禁止命令)の効果を確認できたという。

現状は既存の濃縮法を用いて新型コロナウイルスを検出、下水中の感染力は不明

下水調査におけるウイルス濃縮法として、ウイルス粒子が水中で主に負に帯電していることを利用して陽・陰電荷膜への吸着により濃縮する手法や、限外ろ過膜法および超遠心法等が開発されている。これまでに下水から新型コロナウイルス遺伝子の検出に成功した事例では、これらの既存の濃縮法が使用されているが、これらの手法は新型コロナウイルスとはウイルス粒子構造の異なる腸管系ウイルスに対して開発されたものであるため、新型コロナウイルスへの有効性を評価する必要がある。また、下水中の新型コロナウイルスが感染力を有しているかどうかは現時点では不明であることから、感染力を判別できる手法の開発と適用が望まれる。

新型コロナウイルスの下水や環境水中での生残性や消毒剤への感受性を知る上で、近縁のコロナウイルスを指標として用いた研究の成果が参考になるものと考えられる。これらの指標ウイルスは、水中では低温(4℃)でより生残しやすく、有機物量や生物活性等の水質も影響し、条件によっては生残率が99%低下するのに数十日以上を要する。WHOによれば、まだデータは得られていないものの、新型コロナウイルスは腸管系ウイルスよりも環境中での生残性が低く、現行の浄水・下水処理で十分に除去・不活化されることが期待されている。

さらに、水環境中でのウイルスの伝播については、これまでの報告では、主に腸管系ウイルスに焦点が当てられているものの、コロナウイルスを含む呼吸器系ウイルスを下水やその放流先の環境水中から検出した事例も報告されており、遊泳行為による呼吸器系ウイルスへの感染事例も知られている。また、下水処理場の従事者への健康影響を調査した研究の中には、従事者において腸管・呼吸器系疾患が多く見られたと報告している事例もある。

腸管器官中に長期間排出されるとの報告も、下水バイオエアロゾルによる健康リスクは?

病原微生物による健康リスクを評価する際に広く用いられている「定量的微生物リスク評価(QMRA)」を新型コロナウイルスに適用するためには、環境中での生残性や水処理による除去性およびウイルスの曝露量等の不足している知見を明らかにする必要がある。現時点では、新型コロナウイルスが糞便経口経路によって感染することは報告されていないものの、呼吸器官よりも腸管器官中に長期間排出されるという報告もあることから、その可能性を排除することはできない。また、エアロゾル中で長時間感染力を維持できるため、下水処理場から発生するバイオエアロゾル中に新型コロナウイルスが存在するか否か、そして下水バイオエアロゾルがもたらす潜在的な健康リスクについて更なる調査研究が必要だ。

現時点では、下水中における新型コロナウイルスの存在状況、生残性および水処理での除去効果に関する知見が不足しているため、新型コロナウイルスの伝播への下水の関与については明らかになっていない。しかし、関連する呼吸器系ウイルスに関する既往の研究データを活用することで、リスク評価・モデリングが可能となり、新型コロナウイルスの感染制御に貢献できる可能性がある。「今後の新型コロナウイルスの感染拡大防止と社会経済活動再開に向けた適切な政策決定のための判断材料の一つとして、下水疫学調査データの活用が期待される」と、研究グループは述べている。

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