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乳児股関節脱臼の予防運動が効果的だったと判明、ライフコース疫学で-九大ほか

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2024年04月25日 AM09:20

乳児股関節脱臼の予防運動と思春期・成人期の変形性股関節症の疫学との関連は不明

九州大学は4月18日、乳児股関節脱臼を激減させた予防運動の価値を「ライフコース疫学」で解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院整形外科教室の山手智志医員(医学系学府博士課程4年)、佐藤太志助教、中島康晴教授らと、全国12施設(九州大学病院、横浜市立大学病院、九州労災病院、福岡大学病院、飯塚病院、金沢医科大学病院、北海道大学病院、JCHO九州病院、金沢大学病院、京都大学病院、浜の町病院、山形大学病院)との共同研究によるもの。研究成果は、「The Journal of Bone & Joint Surgery」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

疾患を胎児・新生児からの連続する病態として捉え、物理的・社会的曝露による疾病リスクへの長期的影響を研究することで、人生の早い段階における予防策を明らかにする疫学を「ライフコース疫学」と定義している。この考え方を用いることで、変形性股関節症に占める寛骨臼形成不全の割合の高い日本において、その予防策の鍵を見つけられる可能性があった。

50年以上前の日本は乳児股関節脱臼の多発国で、現在では新生児期の下肢の自然な屈曲姿位を妨げる育児習慣が脱臼と関連していると認知されている。例えば、かつて日本で使われていた巻きおむつや、東北地方の嬰児籠(えじこ)、アメリカ先住民のナバホ族の伝統的衣装、中国の一部の地域のおくるみなど、新生児期の下肢を伸展位で固定する衣類等を使用していた地域で脱臼が多かったと現在では認識されている。そのような中、日本では1972~1973年頃、石田勝正氏と山室隆夫氏らの働きかけで、産科医・助産師・保健師・ベビー服製造業・厚生労働省・マスメディアなどの協力を経て、妊婦を含めた一般人口を対象に、新生児の自然な下肢屈曲を妨げない育児方法の啓蒙運動が全国に波及した。その結果、小児の脱臼・亜脱臼・寛骨臼形成不全が激減したことが報告されている。

近年の思春期、成人期の臨床現場では、重度亜脱臼を診ることがとても少ない印象がある。そこで研究グループは今回、乳児股関節脱臼の予防運動と思春期・成人期の変形性股関節症の疫学との関連を明らかにすることを目的に、研究を行った。

予防運動開始後、重度亜脱臼の有病率は5分の1に減少

予防運動開始から50年という節目の2022年に、全国12病院の共同研究により、思春期、成人期の変形性股関節症の横断的疫学調査を行った。その結果、新患患者1,095人(1,383股関節)の調査時年齢は平均63.5歳で、寛骨臼形成不全の有病率は73.8%(1,019股関節)だった。

時系列データを平滑化し、その経時的傾向を探るため、気象学や金融・経済学で一般的な統計手法「移動平均線」を用いて幼少期の治療歴の存在率の出生年による経時的変化を図示したところ、予防運動が始まった1972年を境に、治療歴のある患者の減少傾向が始まったことが可視化された。予防運動前に出生した患者の重度亜脱臼の有病率11.1%に対して、予防運動開始後に出生した患者では2.4%であり、新生児期における予防運動の曝露は成人期の重度亜脱臼の有病率を5分の1(オッズ比0.2,P値< 0.001)まで減少させたことが判明した。

寛骨臼形成不全の存在率がいまだ高いことや高齢化していることも判明

今回の研究により、日本の整形外科学が成し遂げた予防医学の歴史的成功が可視化された。疾病の一次予防は「患者がいなくなること」を目標とする予防医学で、診断や治療を重視して提供する立場からは、結果が見えにくいことが課題だ。成人期に発症する運動器疾患は多数あるが、ライフコース疫学の考え方を適用することで、さまざまな原因や予防法が見つかる可能性がある。同研究で報告された変形性股関節症のライフコース疫学は、一次予防のモデル疾患として、次世代の医学教育への活用が期待できる。また、Jingushiらによる2010年の日本の変形性股関節症の疫学調査では、変形性股関節症患者における寛骨臼形成不全の存在率は81%と高かったが、今回の調査でも73.8%と若干の減少は見られたものの、いまだ存在率が高く、変形性股関節症の集団の高齢化も確認された。

「変形性股関節症の病因は、環境要因の他に、加齢や遺伝的要因を含めた多因子的と考えられ、将来的にはさらなる予防法の開発につながることを期待して、高齢者特有の病態に関する研究や、発育性股関節形成不全の遺伝子領域の特定に関する研究を多施設共同で進めている」と、研究グループは述べている。

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