医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > Sez6l2抗体陽性自己免疫性小脳失調症、原因不明例の中から複数発見-北大ほか

Sez6l2抗体陽性自己免疫性小脳失調症、原因不明例の中から複数発見-北大ほか

読了時間:約 3分12秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年06月08日 AM10:42

原因不明の小脳性運動失調症、一部は「自己免疫性」で治療できる可能性

北海道大学は6月7日、原因不明の小脳性運動失調症の中に「Sez6l2抗体陽性自己免疫性小脳失調症」が複数例存在することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の矢口裕章准教授、矢部一郎教授らの研究グループと、岐阜大学の木村暁夫准教授と下畑享良教授、聖マリアンナ医科大学の伊佐早健司講師と山野嘉久教授、京都府立医科大学大学院医学研究科の笠井高士准教授、新潟大学の田中惠子非常勤講師、横浜市立大学の高橋秀尚教授、北海道大学医学研究院の畠山鎮次教授、渡部昌講師、近藤豪助教との共同研究によるもの。研究成果は、「Journal of Neurology, Neurosurgery and Psychiatry」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

小脳性運動失調症は小脳の障害により、ふらつき・めまい・しゃべりにくさ・歩きにくさなどの運動失調症状を呈する疾患群の総称。この小脳性運動失調症の患者数は日本で約4万人とされ、そのうち神経変性疾患や遺伝性疾患を原因とする患者が約3万人と言われているが、残りの約1万人は原因が不明とされている。

近年、この原因不明の小脳性運動失調症の一部は、自己免疫性機序により発症する自己免疫性小脳失調症であることが報告されている。この自己免疫性小脳失調症は「治療可能」な小脳性運動失調症として注目されており、海外から診断マーカーもしくは病原性の説明が可能な抗体として、複数の抗体が報告されるに伴い、その疾患概念が確立しつつある疾患群だ。

原因不明症例の中にSez6l2抗体陽性自己免疫性小脳失調症がどの程度存在するか検証

今回検討したSez6l2抗体はその中の一つであり、2014年に矢口准教授と矢部教授が日本における症例の血液から、世界で初めて発見・報告して以来、世界各国から追加報告がなされてきた経緯がある。特に欧州では、精力的に測定が行われ、原因不明の自己免疫性小脳失調症の約4%に同抗体が検出されたことが報告されている。その結果をもとに、2022年に欧州の脳神経内科医らが提案した自己免疫性小脳性失調症の診断基準案では、Sez6l2抗体の測定が推奨されるまでに至っている。さらに、2018年に矢口准教授と矢部教授はSez6l2抗体が、タンパク質間の直接結合を阻害することで病原性を生じる可能性も報告している。

研究グループは今回、多施設共同研究を実施し、原因不明の小脳性運動失調症患者多数例を対象に、Sez6l2抗体陽性自己免疫性小脳失調症がどの程度存在するかを検討した。

原因不明の小脳性運動失調症162例を対象に「Sez6l2抗体」を測定

研究では、自己免疫性小脳失調症の原因となる抗体であるmGluR1抗体が陰性で亜急性に進行する小脳性運動失調症例162例、および神経疾患コントロールとして78例の神経変性疾患例を対象とした。また、Sez6l2抗体の陽性判定はSez6l2タンパク質をHEK293T細胞株に過剰発現させ、cell based assay法と免疫ブロット法で判定を行った。また、cell based assay法ではIgGサブクラスを検討するため、IgG1とIgG4でも免疫染色を行った。さらに、ラットの小脳切片を用いて組織染色も行った。なお、同研究は北海道大学病院自主臨床研究審査委員会で審査され、承認を受け実施した。

新たに2例のSez6l2抗体陽性例を確認、MSAとは臨床経過・脳MRI所見異なる

判定の結果、新たに2例のSez6l2抗体陽性例を確認。また、そのIgGサブクラスはIgG1に加えIgG4が関与していることを示した。また、原因不明の小脳性運動失調症の場合、日本における代表的小脳性運動失調症である多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)の初期段階にある可能性があるが、長期にわたる臨床経過を解析することで、Sez6l2抗体陽性例はMSAとはその臨床経過と脳MRI所見が異なることも示した。

また、Sez6l2抗体陽性例においては、小脳性運動失調のほかに精神症状や認知機能低下を認める例も存在することを示した。

Sez6l2抗体の測定が、自己免疫性小脳失調症の鑑別や治療法選択に役立つ可能性

今回の研究により、Sez6l2抗体陽性自己免疫性小脳失調症が日本でも複数例存在することが示された。今後、亜急性の小脳性運動失調を呈するなどの自己免疫性小脳失調症が疑われる症例では、積極的なSez6l2抗体の測定によって、より早期から治療介入が可能になることが期待される。また、Sez6l2抗体陽性例の臨床経過はMSAと異なることも明らかにされた。このことから、Sez6l2抗体陽性自己免疫性小脳失調症は独立した疾患群である可能性が考えられる。

「今回の報告を契機として、Sez6l2抗体のみならず、他の自己抗体によるものも含めた自己免疫性小脳失調症全体が注目されることが期待されるが、Sez6l2抗体陽性例では認知機能低下やパーキンソン症状を呈することも報告されているため、今後、原因不明の認知症やパーキンソン症候群での検討も必要だと考える」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 肝線維化の治療薬候補を同定、iPS細胞から誘導の肝星細胞で-東大ほか
  • 「ストレス造血時」における造血幹細胞の代謝調節を解明-東北大ほか
  • 食道扁平上皮がんで高頻度のNRF2変異、がん化促進の仕組みを解明-東北大ほか
  • 熱中症搬送者、2040年には日本の都市圏で2倍増の可能性-名工大ほか
  • 日本人がアフターコロナでもマスク着用を続けるのは「自分がしたいから」-阪大ほか