医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 海外 > 限局性前立腺がん、「監視療法」による生存率を英国の長期大規模臨床試験で明らかに

限局性前立腺がん、「監視療法」による生存率を英国の長期大規模臨床試験で明らかに

読了時間:約 3分8秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年03月24日 PM12:00

多くの前立腺がんは「」で十分?

前立腺がんの治療を行わずに経過を観察する「監視療法(active monitoring)」を受けた患者の長期的な生存率は、放射線療法や手術を受けた患者と同程度であることが、英国の大規模臨床試験で示された。英ブリストル大学社会医学部教授のJenny Donovan氏らによるこの研究結果は、欧州泌尿器科学会(EAU 2023、3月10~13日、イタリア・ミラノ)で発表され、論文が「The New England Journal of Medicine(NEJM)」に3月11日掲載された。


画像提供HealthDay

この臨床試験では、英国で1999~2009年に前立腺特異抗原(PSA)検査を受けた50〜69歳の男性8万2,429人のうち、限局性前立腺がんと診断された1,643人を、1)監視療法群(545人)、2)前立腺全摘除術群(553人)、3)放射線療法群(545人)のいずれかにランダムに割り付けた。

中央値15年(範囲11〜21年)に及ぶ追跡期間中に45人(2.7%)が前立腺がんにより死亡していた。内訳は、監視療法群17人(3.1%)、前立腺全摘除術群12人(2.2%)、放射線療法群16人(2.9%)であり、有意な群間差は確認されなかった。がんの転移が監視療法群で51人(9.4%)、前立腺全摘除術群で26人(4.7%)、放射線療法群で27人(5.0%)に生じ、病勢進行は、同順で141人(25.9%)、58人(10.5%)、60人(11.0%)に認められた。しかし、追跡期間中央値15年の時点でのがん特異的生存率は、監視療法群で96.6%、前立腺全摘除術群で97.2%、放射線療法群で97.7%であり、監視療法群の133人(24.4%)は、その時点でも治療を一切受けていなかった。

この結果に基づき、研究グループは、低リスクまたは中リスクの前立腺がんと診断されても、慌てて治療法を決める必要はないと主張。Donovan氏は、「前立腺がんの低リスク患者の全てと中リスク患者の多くは、手術や放射線療法の代わりに監視療法を選んでも安全と考えられる」と話している。

一方、この新たな試験結果をきっかけに、これまで続いてきた前立腺がんスクリーニングのベネフィットとリスクをめぐる議論がさらに加熱している。(ACS)の推計によると、米国では2014年から2019年にかけて、前立腺がんの発症率が年間3%のペースで上昇。進行前立腺がんの発症率も年間約5%上昇している。そのため一部の専門家は、前立腺がんのスクリーニングを受けるかどうかの判断を個人と担当医に委ねている現行ガイドラインを見直す必要性を主張している。

ACSも同協会のガイドラインの再評価を実施中だ。ACSチーフサイエンティフィックオフィサーのWilliam Dahut氏は、「PSA検査をすることで、共同意思決定(shared decision making;SDM)が容易になると私は考えている。PSA値がかなり高ければ、MRI検査を受け、その結果次第で生検を、といった考えにもなるかもしれない。それに対してPSA値が十分に低ければ、特にすべきことはない。中程度なら、しばらく監視することになる。PSA値が分からないと、真に有用なアドバイスをするのはかなり難しい」と言う。

一方、Donovan氏は、前立腺がんスクリーニングの拡大は不必要な医療行為の増加につながるとの見方を示す。同氏は、「男性はPSA検査を受けるかどうかを決める前に、検査を受けた後に起こり得るあらゆることについて慎重に検討すべきだ。PSA検査後には、生検などのさまざまな検査を次々と受けることになり得る。万が一、がんが見つかっても、限局性で低リスクのがんである可能性が高いが、治療については難しい選択を迫られることになり、不必要に『健康な男性』を『がん患者』に変えてしまいかねない」と話す。

Dahut氏はまた、15年間でがんが転移した患者の割合が、監視療法群では前立腺全摘除術群や放射線療法群のほぼ2倍であったことも指摘。その上で、「がんが転移するまで待たずに治療を受けていればそれを防げたのではないか」との見方を示している。

これに対し、今回の研究には関与していない、デュッセルドルフ大学(ドイツ)の泌尿器科医でEAU泌尿器学術集会会長のPeter Albers氏は異なる見解を示し、「監視療法下での病勢進行が、高い死亡率に結び付くわけではないことを示したこの研究結果は、泌尿器科医と患者にとって驚きであるとともに励みにもなる」と話す。同氏は、「治療を遅らせることは副作用の回避にもつながるという点からも安全である。このことは患者にとって重要なメッセージだ」としている。(HealthDay News 2023年3月13日)

▼外部リンク
Fifteen-Year Outcomes after Monitoring, Surgery, or Radiotherapy for Prostate Cancer

HealthDay
Copyright c 2023 HealthDay. All rights reserved.
※掲載記事の無断転用を禁じます。
Photo Credit: Adobe Stock
このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 海外

  • 大腸がんの血中ctDNAによる検出精度は83%、前がん病変の検出能は低い-米研究
  • 一部のクジラ類で閉経があるのは、子どもや孫の生存を助けるため?
  • ショートスリーパーは健康的な食習慣でも2型糖尿病の発症リスクが高くなる
  • GLP-1受容体作動薬使用者の56%で術前に多量の胃残留物、GL推奨の絶食時間は不十分?
  • 世界の肥満人口がついに10億人突破か、小児でも1億5000万人以上と推定-英研究