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京大発の薬剤「KUS121」が心筋梗塞サイズを縮小、新規治療薬となる可能性-京大

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2019年11月05日 AM11:00

VCPのATPase活性のみを低下させることを目的として開発された薬剤

京都大学は10月30日、マウス心筋梗塞モデルを用いて、同大で開発された薬剤「(Kyoto University Substance121)」の投与実験を行った結果、梗塞サイズが減少し、心機能の改善が認められることを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科循環器内科 木村剛教授、尾野亘同准教授、井手裕也同特定助教、京都大学大学院生命科学研究科 垣塚彰教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国の国際学術誌「JACC:Basic to Translational Science」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

急性心筋梗塞の梗塞サイズを減少させ、予後を改善させる治療法は、経皮的冠動脈インターベンション()による早期再灌流療法のみだが、それでも完全に梗塞をなくすことはできていない。VCPは、ATPase(ATPを加水分解する酵素)活性を有し、細胞内の異常タンパク質の処理などを担うタンパク質。KUS121は、このVCPのATPase活性のみを低下させることを目的として、京都大学で開発された。

これまでに、KUS121は細胞内ATPの維持、ERストレス(小胞体ストレス)の軽減を介して細胞死を抑制すること、また、生体でもKUS121の保護効果が報告されている。今回、KUS121が虚血性心疾患に対しても効果を有するか、臨床応用も視野に入れた検討を行った。

今後、新規の急性心筋梗塞治療薬として臨床応用へ向けた開発を行う予定

研究グループは今回、KUS121の心筋細胞保護効果を細胞実験で検討。ラット心筋芽細胞「H9C2」にツニカマイシン投与、無グルコース培養、H2O2投与によって細胞死を誘導したところ、KUS121は用量依存的に細胞死を抑制した。また、それには細胞内ATPレベルの維持、ERストレスの減少を介していることもわかった。さらに、XF96細胞外フラックスアナライザーを用いたミトコンドリア機能の評価検討では、ツニカマイシン投与によって低下したミトコンドリア機能が、KUS121投与によって維持されたことが判明した。これらのことから、KUS121は、ATPの維持、ERストレスの減少、ミトコンドリア機能の保持を介してH9C2の細胞死を抑制している可能性が示唆された。

次に、生体でのKUS121の保護効果を検証するため、マウス心筋梗塞(虚血再灌流)モデルを用いてKUS121の投与実験を行った。KUS121の再灌流後投与は、再灌流7日後の組織学的な評価では非投与群と比較して有意に梗塞領域を減少させた。また、心臓超音波による心機能評価においても、KUS121の再灌流後投与は、非投与群と比較して有意に心機能を維持した。同様に、生体でもKUS121が細胞内ATPの維持、ERストレスの減少を介して保護効果を有するか検討を実施。ERストレスの評価のため、再灌流1時間後の心臓組織中でのCHOPの発現量を測定したところ、KUS121投与群では有意に減少していた。さらに、虚血再灌流モデルでのATPの経時変化を評価するため、ATP可視化マウスであるGO-ATeam2マウスを用いてKUS121の投与実験を行った結果、虚血によって低下したATPは、非投与群では再灌流後も低下したままだったが、KUS121の再灌流後投与によって、ATPが速やかに回復することがわかった。

最後に、臨床応用を視野に入れ、ブタ虚血再灌流モデルを用いてKUS121の保護効果を検討。再灌流直後にKUS121を冠動脈内投与し、再灌流7日目に梗塞領域の評価を行った。TTC・エババンスブルー二重線色による組織学的な評価では、KUS121投与によって、用量依存的に梗塞領域は減少した。また、遅延造影心臓MRIによる梗塞領域の評価においても同様の結果だった。これらの結果から、KUS121が、新規の急性心筋梗塞治療法となり得ることが示唆された。

心筋梗塞後の梗塞範囲の大きさは、予後との相関があることが明らかにされている。心筋梗塞後の梗塞範囲を抑えることができれば、患者のQOLの大幅な改善にとどまらず、総死亡率ならびに心不全入院を減少させることが期待できる。今後、新規の急性心筋梗塞治療薬として臨床応用へ向けた開発を行う予定だという。心不全による再入院と治療においては、現在莫大な医療費が使われているため、そのような心筋梗塞治療薬の開発は医療経済的にも大きな意義を持つと思われる。研究グループは、「これまでに、心筋梗塞サイズの縮小効果を標的として臨床応用された薬剤はなかった。KUS121は虚血再灌流時に低下するATPを維持するという新規メカニズムを有する点、また、生体での作用が強いこと、さらに、投与法として冠動脈内投与という用法で最大薬効を達成することで臨床応用に繋げたいと考えている」と、述べている。

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