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大宮セントラルクリニック  外山聡彦院長

読了時間:約 5分45秒  2010年10月19日 PM12:54
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大宮セントラルクリニック
外山 聡彦院長

「クオリティ」と「症例数」、
「専門性」と「土地柄の治療」
2つの両立を意欲的に模索中

一番の悩み

経営はクオリティと症例数のジレンマ

 後で述べるが、私はこだわった診療ポリシーを持っている。こだわりは往々にして、症例数を減らし、収益を圧迫する。医院経営は事務長に一任しているが、彼の提示する数字はシビアだ。経営面だけを考えるなら、「今月は物品を購入するから、症例数が○件必要」「よし、それなら診る患者さんを増やして帳尻を合わせよう」といった調整もあり得るが、私の場合はそんな柔軟にはできない。
 一番こだわっているのは、診療クオリティだ。もちろん、クオリティ信奉は、自己満足に終わる危険性もある。時間をかけてベストの治療をしたのに、肝心の患者さんが喜んでいない、そんな事態が起こりえるのが医療の複雑なところ。
 だから私は、とことん患者さんと話し合う。クオリティには患者さんの安心や納得が含まれるからだ。こちらの考えを押し付けてはならない。学会や勉強会など様々な場所から情報を入手して、全ての選択肢を患者さんに提示して、ご希望を導き出して行く。そして、そのご希望に極力沿う形になるよう努力する。
 当然ながら時間はかかり、スケジュールオーバーすることもしばしばだ。治療のクオリティを保ちながら、症例数とのバランスをどうとるか。それは非常に難しく、いつも頭を悩ませている。

一番のこだわり

極力自らが一気通貫で診療する

 もう一つの私の特徴は、診療においては人任せにしないこと。出来るだけ自らが患者さんに向き合い診療にあたる。通常、医院経営の指南書では逆のことが書いてある。医師が患者さんと関わる時間を減らし、コメディカルが代行することで効率化を目指すクリニックが多い。しかし患者さんの本音は、「全ての治療過程で一人の先生に診てもらいたい」だ。その期待に応えるため、問診、超音波検査、診断、手術、術後確認と、全て私が行っている。
 実は当院も、分業体制だった時期がある。確かに回転は良かった。だが他人と自分の所見で異なることもある。その状況下で手術を行うのは抵抗があるし、治療クオリティの低下に通じると感じ、一人で行うことにした。その甲斐あって今では、「ここは先生が一人で診てくれるから安心」と、東京からわざわざ足を運んで下さる患者さんも増えてきた。
 そして大切なのは、手術が終わった後の、フィードバック。術後の経過から「こうしておけばよかった」と思うこともあるが、それらも含め、全てを正直に患者さんにお伝えしている。この行為も、結局は患者さんの信頼を得ることになる、急がば回れだと信じている。こうした率直なフィードバックも、全プロセスを自ら行っていなかったら難しいし、逆にフィードバックの効果も薄いだろう。

一番の苦労

精神的行き詰まりからの脱却、新分野での開業

 私は心臓外科医として、心臓疾患に20年ほどたずさわってきた。しかし先天性の小児心臓疾患は非常に繊細で治療途中に亡くなるケースも珍しくない。何の落ち度もない幼い子供が亡くなっていく姿を看るのは、本当にやりきれない思いだった。
 その後大人の心臓疾患を診ることになった。「大人の病気はご本人の自己責任も多いはずだから、幾分か精神的に楽だろう」と思っていたが、実際はそうではなかった。手術が成功した後で、患者さんから「手術なんかしないで、あのまま死なせてくれれば良かったのに」と言われたこともある。私は助けているつもりでも、患者さんにしてみれば、ただただ苦しいだけ。自分の行っていることは自己満足ではないか?と思い始めた。次第に鬱積が行き場をなくし、私は精神的にとても疲れていた。
 そんな時、先輩の勧めで静脈瘤治療の見学に向かった。静脈瘤というと、血管造影などの「痛い・辛い治療」という認識しかなかったが、新しい治療法が確立されていて、非常に興味を持った。先輩から「少し目先を変えてみてはどうか」とのアドバイスもあり、静脈瘤治療を学ぶことにした。
 さらに、埼玉県内には静脈瘤を診察、治療する施設は少なく、総合病院の心臓血管外科が大きな手術の合間に治療する事がほとんどで、多くの患者さんが待たされている状態だった。また日帰り手術を行っている施設はほとんど無く、開業して静脈瘤に専念し、一人でも多くの県内の患者さんのために貢献したいという思いもあった。このような理由もあって、勤務医を辞めて心機一転、開業をすることにした。つまり、「新分野」x「開業」と2重のチャレンジをすることになった。

一番の秘訣

勇気をもって専門性を打ち出す

 「静脈瘤」といっても、一般の方にはまだまだ認知が低い。果たして静脈瘤治療を掲げても、患者さんが来てくれるのか不安もあったが、「もし静脈瘤治療の患者さんが集まらなかったら、循環器治療に乗り換えればいい」と軽く考えていた。しかし経営していくうちに学んだのは、専門性の重要さ、差別化の大切さだ。
 患者さんの目や耳には多数の医療機関の名前が入ってくるわけで、曖昧な表示では、どこに行くべきか迷ってしまう。また、明らかな専門性がなければ、他のクリニックが紹介してくれる際に「あのクリニックなら○○専門だから行くといいですよ」と言ってもらえない。
 患者さんはもちろん、医師仲間にもわかりやすい目印として、差別化をはかることが想像以上に重要だった。私は、このことに気づくまでに時間がかかった。今では静脈瘤治療に絞り、その他の疾患は別の病院に紹介することにしている。出だしは悩んだが、今ここへきてやっと経営面でもバランスがとれるようになってきている。私のように時間を無駄にしないためにも、これから開業される方にはできるだけ開業当初から思い切ってポリシーを持つことをお勧めしたい。

一番のアドバイス

地に足をつけて

 「専門性」というと、診療圏を広域設定して広告で患者さんを集めるイメージを持ちがちだが、土地柄にあった治療をすることが重要だ。どんな土地に開業するかによって、治療スタンスは異なる。例えば当院は、埼玉にある。先端医療を求める患者さんよりも、「保険の範囲内で」と希望する患者さんが多い。静脈瘤手術の保険点数は10万なので、4件行えば40万となる。都会の真ん中でレーザーなど自由診療をメインにする場合、1件で40万だ。ただしそれなりの地代や人件費がかかるので、診療のスタイルも変わってくるだろう。保険診療と自由診療、どちらにしても立地に合致するポリシーを原点に持つことが大切だ。
 土地柄だけでなく、自分を見極めることも大事だ。自分には何ができて、何ができないのかを客観的に判断し、差別化を図っていくことだ。今の時代はスペシャリティが物を言う。それがなければ経営を維持するのは難しい。
 設備面でも、「あれもこれも欲しい」は避けよう。借り入れはなるべく少なくし、あまり重たすぎないようにしておくのが望ましい。設備は必要最低限を揃え、追って足していけば良い。
 開業当初は「あれもこれもやりたい」と思いがちだし、領域や設備を取捨選択するのには「怖さ」も付きまとう。でも患者さんが病院を選ぶとき、場所や外観だけで決めるのではない。「ここにかかったら、何をしてくれるのか」が一番重要なのだ。それは先にも述べたように、紹介する側の病院、医師らにとっても同じこと。繰り返しになるが勇気を出して一度は方向性を持って進んで欲しい。駄目だと思った段階で切り替えれば良い、一番避けるべきは漫然とやり続けることだ。

医院プロフィール

大宮セントラルクリニック

〒330-0854 埼玉県さいたま市大宮区桜木町1-9-18 タナカビル3F
TEL:048-649-0118
医院ホームページ:http://www.oc-clinic.jp/


JR大宮駅西口より徒歩5分。巨大なターミナル・大宮駅の喧噪を抜けたビルの中にクリニックがある。院内は木目を基調としたインテリアで、高級感が漂う。
詳しい道案内は、医院ホームページから。

診療科目

心臓血管外科、循環器科・内科、皮膚科

理念

患者様のニーズに合わせたオーダーメードの治療、心臓血管外科専門医による日帰り手術をコンセプトとし、地域に根付いた愛される病院を目指す。

院長プロフィール

外山 聡彦(とやま・あきひこ)院長略歴

1990年 高知医科大学 医学部卒業
1990年 東京女子医科大学日本心臓血圧研究所外科
1991年 佼成病院心臓科
1993年 済生会熊本病院心臓血管外科
1995年 国立横浜病院心臓血管外科
1996年 上尾中央総合病院循環器外科
1998年 上尾中央総合病院循環器外科医長
2005年 上尾中央総合病院循環外科副部長
2006年 お茶の水血管外科クリニック副院長
2007年 大宮セントラルクリニック開業

所属学会

日本循環器学会、日本外科学会、日本胸部血管外科学会、日本心臓血管外科学会、日本血管外科学会、日本冠動脈外科学会

レクサスの展示場を参考にしたという内装。バックのライトが輝く。
木目を基調とした高級感溢れるカウンター。
「内装は事務長に一任した」とのこと。