医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 双極性障害、躁・うつ両方の症状を示し病態解明に有用なマウスモデル作製-理研ほか

双極性障害、躁・うつ両方の症状を示し病態解明に有用なマウスモデル作製-理研ほか

読了時間:約 3分3秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年02月24日 AM09:45

これまでのGWASにおいて、多価不飽和脂肪酸代謝に関わる遺伝子が見出されていた

(理研)は2月21日、双極性障害の大規模遺伝解析()によって同定されたFADS1/2遺伝子に着目し、そのヘテロ欠損マウスが新たなモデル動物として有用であることを明らかにしたと発表した。この研究は、理研脳神経科学研究センターの山本明那大学院生リサーチ・アソシエイト(現 東京大学大学院医学系研究科医学博士課程大学院生)、笠原和起上級研究員(研究当時)、順天堂大学大学院医学研究科の加藤忠史教授、横溝岳彦教授、李賢哲准教授、藤田医科大学医学部の岩田仲生教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Psychiatry」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

双極性障害は、躁・うつ状態という極端な気分変動がみられることが特徴的な精神疾患の一つである。双極性障害の特徴である躁・うつ状態といった両方向の行動変化を示すモデルマウスは報告されておらず、その原因解明は困難を極めている。双極性障害には遺伝要因が強く関わっているが、多くの患者の原因となるような遺伝子は存在しないことがわかっている。小さな遺伝的リスクの積み重ねを一つ一つ明らかにするため、数千〜数万人のゲノム構造を解析する大規模GWASが行われ、いくつかのリスク遺伝子が見出されている。その中でどちらも多価不飽和脂肪酸不飽和化酵素であるFADS1とFADS2遺伝子領域は、日本人の解析で双極性障害との関連が最初に報告され、さらに他の人種集団でも関連が確認された領域として注目されている。今回の研究ではこのGWASの知見に加えて、多価不飽和脂肪酸の代謝に関する基礎研究の成果に基づき、変異マウスを作製した。

突発的な高活動と数週間続く低活動を示すFADS1/2遺伝子ノックアウトマウスを作製

/2は、多価不飽和脂肪酸の代謝に関わっており、これまで数多くの基礎研究がなされている。その成果から、GWASで見出された小さな遺伝的リスクを持っているとこれら酵素の活性が低いと予想されるため、両遺伝子を同時に欠損したヘテロ接合性ノックアウトマウス(ヘテロKOマウス)をゲノム編集技術を用いて作製した。双極性障害に特徴的な気分の変動を捉えるため、マウスにとって目的指向的な行動であり、それ自体に報酬要素(マウスが喜んで行う)もある輪回し行動を半年間にわたり記録した。その結果、ヘテロKOマウスは、半日〜1日間持続する突発的な高活動(平均すると半年間に約2.4回)に加えて、数週間にもおよぶ低活動(メスでは平均すると半年間に約1.3回)といった一過性の異常行動を示した。躁状態を調べる行動実験は現在のところ提唱されていないが、抗うつ薬の効果やうつ状態を調べる尾懸垂試験を高活動中に行ったところ、うつ状態とは反対の状態であることが示唆された。また、低活動の期間中は睡眠覚醒リズムが乱れていた。

リチウムやのDHA投与によってヘテロKOマウスのうつ状態頻度が抑制

双極性障害の治療に用いられるリチウムをヘテロKOマウスに投与したところ、うつ状態の発症頻度が抑制された。また、DHAなどを豊富に含む魚の摂取量が多い国では、うつ病や双極性障害の生涯有病率が低いことが知られており、脂肪酸代謝との関連が示唆されてきた。そこで、DHAなどを含まない合成餌を作り、そこにDHAやEPAを加えた餌をヘテロKOマウスに与えて輪回し行動を測定した。その結果、DHA投与によってうつ状態の発症頻度が抑制された。

KOマウスの脳と血漿では脂質の組成に変化

FADS1/2が多価不飽和脂肪酸の代謝に関わっているため、双極性障害様の行動を示したヘテロKOマウスの血漿と脳内でどのような脂質に変化があったのかを調べることにした。採取した脳と血漿からそれぞれ脂質を抽出し、LC-MS/MSを用いて複数の脂質分子種を詳細に調べると、脳と血漿では明らかに異なる組成であることがわかった。血漿に比べ脳内の脂質は変動が小さいが、脳内の脂質だけをより細かく解析すると、いくつかの脂肪酸や脂質クラスでは有意に変動しているものがあることもわかった。

双極性障害の発症の原因や症状について脂肪酸代謝を切り口とした新しい理解の第一歩

今回、研究グループは遺伝学的な知見に基づいて作製したFads1/2ヘテロKOマウスが、双極性障害に特徴的な躁状態・うつ状態に類似する行動変化を示す世界で初めての動物モデルであることを明らかにした。この変異マウスでは脳の脂質パターンが異なっており、またDHAが行動変化に対して効果的であることから、双極性障害の発症の原因や症状について脂肪酸代謝を切り口とした新しい理解の第一歩になった。「今回着目した小さな遺伝的リスクは約半数の患者が持っており、このヘテロKOマウスを用いた研究開発によって、より広く効果的な新しい治療法・治療薬につながるかもしれない」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 肝線維化の治療薬候補を同定、iPS細胞から誘導の肝星細胞で-東大ほか
  • 「ストレス造血時」における造血幹細胞の代謝調節を解明-東北大ほか
  • 食道扁平上皮がんで高頻度のNRF2変異、がん化促進の仕組みを解明-東北大ほか
  • 熱中症搬送者、2040年には日本の都市圏で2倍増の可能性-名工大ほか
  • 日本人がアフターコロナでもマスク着用を続けるのは「自分がしたいから」-阪大ほか