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遺伝要因による日本人の統合失調症、スパイン密度低下にRhoキナーゼが関与-名大

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2023年01月06日 AM11:06

統合失調症に関与するARHGAP10バリアント、下流のRhoキナーゼ活性化と病態の関連は不明

名古屋大学は1月5日、マウスを用いた研究結果から日本人統合失調症患者で確認されたArhgap10遺伝子バリアントにより引き起こされる内側前頭前皮質のスパイン密度異常および覚醒剤への感受性の増大にRhoキナーゼが関わる可能性を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科医療薬学の田中里奈子大学院生、Liao Jingzhu大学院生(現 カルフォルニア大学リバーサイド校博士研究員)、羽田和弘特任助教(現 愛知学院大学講師)、山田清文教授、医学系研究科精神疾患病態解明学の尾崎紀夫特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Pharmacological Research」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

統合失調症は、約100人に1人の割合で発症する重篤な精神疾患である。現在の治療薬は、幻覚・妄想などの症状には効果を示すが、気分の落ち込みや認知機能の低下に対する効果は非常に乏しいことが課題である。統合失調症は、さまざまな遺伝要因にストレスなどの環境因子が加わることで発症すると言われているが、そのメカニズムはいまだ解明されていない。そこで、新しい統合失調症の治療薬を開発するために遺伝要因により引き起こされる統合失調症の病態の解明が求められている。

近年研究グループは、日本人統合失調症患者対象のゲノム解析により発症に強く関与するARHGAP10遺伝子バリアントを同定した。さらにこのバリアントを模したArhgap10遺伝子改変マウスを作製・解析した結果、ARHGAP10の下流分子Rhoキナーゼの異常な活性化および、統合失調症患者で見られる内側前頭前皮質の神経細胞のスパイン密度低下、野生型マウスには影響を及ぼさない低用量の覚醒剤による認知機能の低下を報告していた。しかし、Rhoキナーゼの異常な活性化とこれらの表現型との関連はわかっていなかった。

Rhoキナーゼ阻害剤投与によりArhgap10遺伝子改変によるスパイン密度の低下が改善

今回研究グループは、Arhgap10遺伝子改変マウスを用い、Arhgap10遺伝子バリアントを基盤とする統合失調症の病態におけるRhoキナーゼの役割を探索した。日本人統合失調症患者のARHGAP10遺伝子バリアントを模したArhgap10遺伝子改変マウスにRhoキナーゼ阻害剤ファスジルを投与することで、内側前頭前皮質の神経細胞のスパイン密度の低下が改善した。また認知機能の評価として視覚弁別試験を行い、ファスジルは野生型マウスには影響を与えない低用量の覚醒剤処置で誘発される認知機能障害を改善することを発見した。さらに、ファスジルを投与することにより、覚醒剤により惹起される内側前頭前皮質の神経活動の異常な興奮が抑制された。以上から、Arhgap10遺伝子バリアントによるRho3キナーゼの異常な活性化がArhgap10遺伝子改変マウスのスパイン形態の神経病理学的変化と覚醒剤誘発性の認知機能障害に重要な役割を果たしていることが示唆された。

統合失調症の治療薬開発に寄与すると期待

研究結果は、Arhgap10遺伝子バリアントを基盤とした統合失調症の病態において、Rhoキナーゼが治療標的になり得る可能性を世界で初めて示唆した。「今後、これらの知見がARHGAP10遺伝子バリアントをもつ患者を含め統合失調症に対する治療薬の開発に大きく寄与することが期待される」と、研究グループは述べている。

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