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アルコール依存症薬ジスルフィラムが腎臓病悪化を抑制することを発見-東京理科大ほか

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2022年11月22日 AM11:20

抗GBM抗体型糸球体腎炎の原因となるマクロファージの制御法としてFROUNTに着目

東京理科大学は11月21日、既存のアルコール依存症治療薬であるジスルフィラム(ノックビン)が腎臓病の悪化を抑制できることを新たに発見したと発表した。この研究は、同大生命医科学研究所の寺島裕也講師、松島綱治教授、薬学部の牧野宏章助教(現、武蔵野大学薬学部)、高橋秀依教授、日本医科大学解析人体病理学の遠田悦子助教、清水章教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Kidney International」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

マクロファージは生体の異常を感知して炎症性サイトカインやケモカインを放出し、生体防御のための炎症・免疫応答に中心的な役割を果たしている。マクロファージが過剰に働くと、ときとして組織傷害をひき起こしたり、炎症の慢性化を招いてしまう。抗GBM抗体型糸球体腎炎では、腎臓の糸球体基底膜(GBM)に対する抗体が原因で糸球体にマクロファージが集積し、活性化されて放出されるサイトカインやケモカインが糸球体に制御不能な炎症を引き起こし、半月体と呼ばれる特徴的な形態を示す。半月体が生じた糸球体は本来の機能を発揮できなくなり、それが腎臓全体の糸球体に及ぶと腎機能の廃絶(末期腎不全)に陥り人工透析や腎移植が必要となる。治療には免疫応答を抑えるためにステロイド薬、免疫抑制薬および血漿交換療法が用いられるが、治療効果は限定的であり、多くの症例が末期腎不全に至っている。また治療に伴う感染症などの副作用も問題となる。

今回の研究では、抗GBM抗体型糸球体腎炎の原因となるマクロファージを制御する方法として、研究グループが2005年に発見したマクロファージの遊走を制御する分子FROUNTに着目した。マクロファージは炎症時、血液中から炎症局所に動員される単球から分化する。FROUNTは、単球やマクロファージなどの白血球が体内を遊走する際に目印となるケモカインの受容体CCR2とCCR5に作用することで、単球・マクロファージの遊走活性を制御している。研究グループは、2020年に、既存のアルコール依存症治療薬であるジスルフィラムにFROUNT阻害活性があることを見出し、このジスルフィラムが、がんを促進する働きをするマクロファージを調節することでがんを抑制することを報告していた。

ラットモデルにジスルフィラム投与、FROUNT阻害を介し半月体形成と尿中アルブミン値上昇が抑制

今回の研究では、FROUNTの阻害活性をもつジスルフィラムの、抗GBM抗体型糸球体腎炎に対する治療効果を検討した。抗GBM抗体型腎炎におけるジスルフィラムの効果を検証するため、ラットに抗GBM抗体を投与して腎炎を誘導するモデルを用いた。このモデルでは、ヒトの抗GBM抗体型糸球体腎炎と同様に、糸球体に半月体が形成され、糸球体傷害の結果として尿中アルブミン値の上昇がみられる。ジスルフィラムを臨床用量相当量で投与すると、半月体の形成と、尿中アルブミン値の上昇が抑えられることがわかった。腎炎が誘導されると、糸球体にはマクロファージや、続いてリンパ球の集積がみられるが、ジスルフィラムの投与により、早期からマクロファージの浸潤が抑えられており、その後のリンパ球浸潤も抑制された。さらに、ジスルフィラムよりFROUNT阻害活性の高い誘導体DSF-41が、より少ない投与量で同等の腎炎抑制効果を示すことを見出した。ジスルフィラムはFROUNT以外にもさまざまな標的が報告されているが、これらの結果から、見出された腎炎抑制作用はFROUNTの阻害を介するものであることが示唆される。

ジスルフィラムによってマクロファージの遊走仮足の形成が抑制

マクロファージに作用することでなぜ糸球体傷害が抑えられたのか。研究グループはジスルフィラムによる腎炎抑制のメカニズムについて、詳細な解析を行い、主に3つの機構で腎炎を抑制していることを明らかにした。

細胞は動く際に「仮足」と呼ばれる突起を出すが、糸球体の係蹄と呼ばれる毛細血管内のマクロファージ(またはその前駆細胞である単球)の形態を詳細に観察した結果では、ジスルフィラムを投与したラットでは、マクロファージの仮足が少なくなっていることがわかった。研究グループはこれまでにも培養細胞を用いた観察で、FROUNTが仮足形成に関与することを明らかにしていたが、今回初めて、生体組織において、FROUNTの阻害によってマクロファージの遊走仮足の形成が抑制されているところを捉えた。

マクロファージによるサイトカイン・ケモカインの産生を直接抑制、かつポドサイトの消失を軽減

次に、糸球体の遺伝子発現解析では、炎症性サイトカインであるTNF-αや、単球・マクロファージを呼び寄せるケモカインであるCCL2、リンパ球などを呼び寄せるCXCL9の発現が低下していた。培養マクロファージを用いて刺激によって誘導されるサイトカイン産生に対するジスルフィラムの作用を調べた実験では、ジスルフィラムがマクロファージによるこれらのサイトカイン・ケモカインの産生を直接抑制する作用をもつことを明らかにした。ジスルフィラムがマクロファージによるCCL2の産生を抑えることは、糸球体に集積したマクロファージが、活性化されてさらに別の単球・マクロファージを呼び寄せ、炎症を増幅するところが抑えられると考えられる。

また、ジスルフィラムの投与により、ポドサイトと呼ばれる糸球体の毛細血管を裏打ちしてタンパクが漏れ出るのを防いでいる細胞の消失が軽減できることもわかった。ポドサイトの消失は、炎症細胞が出す炎症性サイトカインTNF-αなどの働きでポドサイトがはがれたり死んだりすることが原因で、半月体形成のきっかけとなると考えられている。ジスルフィラムやFROUNTの欠損によりマクロファージによるTNF-α発現が低下することから、炎症性サイトカインの抑制を介した機序によりポドサイトの消失が抑制されていることが考えられた。

抗GBM抗体型腎炎のヒト症例、病変部位にFROUNT陽性のマクロファージが多数存在

今回の研究において、FROUNT阻害によりマクロファージの糸球体への集積が抑えられるとともに、サイトカインの産生が抑制されており、FROUNTが糸球体内のマクロファージの応答に複合的に関与していることが見えてきた。研究では、臨床応用を目指して、ジスルフィラムの長期的な効果についても検討しており、抗GBM抗体型糸球体腎炎モデルにおいて炎症の結果生じるコラーゲンの腎組織への沈着が抑制されていることを示した。さらにはヒトの抗GBM抗体型腎炎の症例において、病変部位にFROUNT陽性のマクロファージが数多く存在していることを明らかにし、FROUNT阻害薬ジスルフィラムが抗GBM抗体型糸球体腎炎に有効であることを強く示唆する結果を示した。

得られた知見は、マクロファージが関わる炎症・組織傷害が問題となるさまざまな疾患の治療法の開発につながることが期待される。なお、ケモカイン受容体シグナルに関与して細胞の遊走を調節するFROUNTが、どのようにマクロファージの活性化を制御するのか、という分子機序については未だ不明であり、引き続き解明に向けて取り組んでいるという。「本研究の成果により、腎不全の原因となる難治性の腎炎の治療に、FROUNTを阻害する既存薬ジスルフィラムが活用できることが期待される」と、研究グループは述べている。

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