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腸管バリア機能の低下が「自己免疫性膵炎」発症に関与、病原性細菌も同定-近大

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2022年09月06日 AM10:04

腸管バリアと「」の関係は不明だった

近畿大学は9月1日、指定難病「自己免疫性膵炎」の発症メカニズムを研究した結果、腸管を病原体や毒素の侵入から守る腸管バリアの機能低下が発症に関与していることを解明し、自己免疫性膵炎の病原性細菌が腸内細菌のシウリ菌(Staphylococcus sciuri)であることを世界で初めて同定したと発表した。この研究は、同大医学部内科学教室(消化器内科部門)の渡邉智裕特命教授と、同大大学院 医学研究科医学系消化器病態制御学専攻の吉川智恵氏(博士課程4年生)を中心とする研究グループによるもの。研究成果は、「International Immunology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

自己免疫性膵炎の大半は、免疫疾患であるIgG4関連疾患が膵臓に生じたものである。IgG4関連疾患とは、抗体の一つであるIgG4が血液中や障害された臓器に増加するという新規疾患概念であり、膵臓のほかにも、唾液腺、肺、腎臓などの多臓器で発症する。近年、IgG4関連疾患に対する医師の認識が高まるにつれ、患者数も増加しており、推定で1万人を超えている。しかし、どのようなメカニズムで起こるのかについては全く解明されておらず、IgG4関連疾患と自己免疫性膵炎は、どちらも指定難病に登録されている。現在、自己免疫性膵炎に対しては、ステロイドによる免疫抑制療法が行われているが、さまざまな副作用があるため、病気のメカニズムの解明と新たな治療法の開発が期待されている。

研究グループは2008年より、IgG4関連疾患と自己免疫性膵炎の病態の解明や治療標的を探索する研究を続けてきた。2019年には、自己免疫性膵炎の発症に腸内細菌への免疫反応が関係することを発見し、2020年には形質細胞様樹状細胞が産生する「I型インターフェロン(IFN-α)」と「インターロイキン33(IL-33)」が、診断や病勢の判定に役立つことを発見した。

自己免疫性膵炎とIgG4関連疾患は高齢者に極めて多い疾患だ。高齢者では腸管バリアが破綻し、本来であれば腸管内にのみに存在する細菌が全身臓器に移行することで、生活習慣病や免疫疾患を引き起こすことが知られている。しかし、これまで腸管バリアと自己免疫性膵炎およびIgG4関連疾患の関係は解明されておらず、腸管バリアの破綻によって、どのような細菌が膵臓に移行し、自己免疫性膵炎を引き起こすのかについても不明だった。そこで研究グループは今回、腸管バリアの破綻、腸内細菌バランスの乱れと自己免疫性の関係を調査した。

腸管バリアの破綻でマウスの自己免疫性膵炎が悪化、病原性細菌は「」と同定

MRL/MpJマウスという自己免疫疾患モデルのマウスを用いて、ウイルスのRNAに類似した分子であるpoly(I:C)を注射し、自己免疫性膵炎を誘導した。同時に高分子デキストランを飲水させることで腸管バリア機能を障害し、腸管バリアの破綻が自己免疫性膵炎を悪化させることを明らかにした。この激しい膵炎を起こしたマウスでは、膵臓と大腸にIFN-αとIL-33を産生する形質細胞様樹状細胞が増加しており、膵臓と腸管で異常な免疫反応が共有されていたという。

また、どのような菌が膵炎の悪化に関わっているのかを調べるため、次世代シークエンス解析を行ったところ、腸管バリアの破綻により激しい膵炎を起こしたマウスの便と膵臓からシウリ菌が検出された。つまり、腸内にいたシウリ菌が腸管バリアの破綻によって膵臓に移行し、膵炎悪化を起こしたと考えられる。

腸管バリア破綻<腸内細菌バランス乱れ<シウリ菌が膵臓へ移動<自己免疫性膵炎

次に、無菌マウスとシウリ菌のみを定着させたマウスを用い、膵炎の悪化にシウリ菌が果たす役割を調査した。無菌マウスでは少量のPoly(I:C)投与では軽度の膵炎しか起こらなかったが、シウリ菌のみしか存在しないマウスでは、通常では軽度の膵炎しか生じない少量のpoly(I:C)投与でも重度の膵炎を発症した。このマウスでは、膵臓にIFN-αとIL-33を産生する形質細胞様樹状細胞が多く認められた。このことから、シウリ菌が自己免疫性膵炎を悪化させる細菌であることが強く示唆された。実際に、重度の膵炎を発症したマウスの膵臓から形質細胞様樹状細胞を分離して、ビフィズス菌、シウリ菌、クレブシエラ菌で刺激したところ、シウリ菌が効率よくIFN-αとIL-33の産生を誘導した。

以上の結果から、腸管バリアの破綻が腸内細菌のバランスを乱し、シウリ菌を膵臓へと移動させ、自己免疫性膵炎を起こすことが明らかになった。これにより、健全な腸内環境の維持が、自己免疫性膵炎の予防と治療に役立つ可能性が示唆された。

自己免疫性膵炎の発症メカニズム解明や新規治療・予防法の開発に期待

今回の研究成果は、自己免疫性膵炎の発症メカニズムの解明や新規治療法・予防法の開発につながることが期待される。「今後は、自己免疫性膵炎患者に対するシウリ菌の病原性を検討するとともに、腸内環境と自己免疫性膵炎・IgG4関連疾患の関係が解明されることが望まれる」と、研究グループは述べている。

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