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2型糖尿病患者の「心理的インスリン抵抗性」克服に重要な情報を明らかに-名大ほか

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2022年03月23日 AM11:15

インスリン治療開始の遅れの背景にある要因は?

名古屋大学は3月17日、日本人の2型糖尿病患者への電話インタビューにより、インスリン治療を開始する動機付けとして、3つのテーマが明らかになったと発表した。この研究は、大学院医学系研究科地域医療教育学寄附講座の岡崎研太郎特任准教授と高橋徳幸特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Primary Care Diabetes」のオンライン速報版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

日本における2型糖尿病は大きな懸念事項であり、人口の高齢化により今後数十年の間にさらに増加すると予測されている。食事療法、運動療法、体重管理などのライフスタイルの変化に加え、経口糖尿病薬や注射薬での治療が行われる。2型糖尿病は進行性であるため、最終的には多くの患者で血糖コントロールを維持するためにインスリン注射が必要となる。インスリン治療は適切に血糖コントロールができる割合が高いが、治療開始が遅れることがよくある。この遅れは「心理的インスリン抵抗性」として知られ、いくつかの研究で検討されている。

心理的インスリン抵抗性は、臨床的惰性やインスリンに関する知識不足などの医師関連因子と、注射への恐怖、体重増加や低血糖への恐怖、インスリンの利点に関する誤解、個人的失敗感などの患者関連因子が原因であると報告されている。しかし、インスリン治療開始を支援する効果的な戦略に関する研究は限られており、日本人2型糖尿病患者における心理的インスリン抵抗性を記述した研究も少ないのが現状だ。

今回、7か国の国際共同研究に参加した日本人患者のうち6人に電話インタビューを実施し、インスリン注射開始前後の考えや認識、関連する要因の理解と、反応の背後にある理由を探索した。インタビューデータは、同大教育学部の大谷尚名誉教授が開発したSteps for Coding and Theorization(SCAT)と呼ばれる質的研究手法を用いて分析した。

「医療者からの適切な助言」「注射プロセスの実演」が開始の動機に

分析の結果、当初はインスリン注射に躊躇していた患者が心理的抵抗感を克服して治療を開始できるようになった要因として、大別すると3つのテーマが浮かび上がった。

1つ目は、医療者からインスリンが適切な治療法であるという助言を受けたことである。インスリン治療の開始を決心する際には、信頼関係のある医療者からの助言が重要であると考えられた。患者は、インスリンの利点と潜在的な欠点を比較した医療者による説明が、インスリン治療を開始する決定に効果的であったと述べている。また、患者と医療者との信頼関係は、医療者が患者の状況を理解し、インスリン治療が最適であることに合意することと同じく、患者にとって重要であることがわかった。医療者が、患者の性格に合ったアプローチができ、高いコミュニケーション能力を持っていることも、重要とされた。

2つ目は、医療者が患者にインスリンペン・針を見せ、注射のプロセスを実演したこと。患者は、注射の手順そのもの、インスリン注射にまつわるスティグマ、痛みへの恐怖が、インスリン治療開始を決断する際に障害になったと回答している。さらに、治療開始時の医学的知識、病状の認識・受容、医師の理解の間にはギャップがある。これらのギャップが、インスリン治療開始への抵抗感を助長している。患者にとって、インスリンペンや針の実物を用いたインスリンの使用方法の教育や実演は重要であり、説明や画像よりも説得力があり、インスリン治療に対する先入観や不安を和らげるのに有効だった。また、医療者のサポートを受けながら、自分でインスリン注射をすることが有効であったと報告されている。

インスリンに対する「諦念・降伏・受容」も要因に

3つ目は、インスリンの投与以外に治療の選択肢がないと感じたこと、インスリンに対する諦念・降伏・受容。「他の治療法がうまくいかず、インスリン治療を開始せざるを得なかった」「インスリン注射療法は、しかたがないと覚悟している」というような回答が4人からあったという。特に血糖値のコントロール状態がよくない、もしくは全身の状態が低下している場合に顕著だった。また、他の重篤な疾患の診断などによるライフスタイルの変化がインスリン治療を開始するきっかけになることもあった。医師のサポートを受けながらインスリン治療を開始すると、予想に反して肯定的な経験をすることもある。

諦念・降伏・受容は、西洋文化では否定的で弱々しい心の状態を意味するが、東洋文化ではより複雑な意味を持ち、一般に望ましい性質とみなされている。諦念・降伏(日本では「あきらめ」と呼ばれる)は多層的な心理的・文化的意味を持つ特定の防衛形態であり、自我の文化特異的適応的防衛操作であると述べている研究者もいる。

医療者対象のワークショップ実施で普及啓発を予定

インスリン注射の開始に消極的な日本人2型糖尿病患者に対して、医療者が基礎インスリン療法を開始する際に、重要となる情報が明らかになった。今後は、こうした情報に基づいた医療者対象のワークショップ実施を計画しているという。ワークショップではさまざまな背景を持ち、さまざまな理由でインスリン注射の開始に躊躇している患者のケースを設定し、参加者によるロールプレイを取り入れる予定。「ワークショップに参加した医療者が、コミュニケーション能力を高め、患者と適切な関係を構築し、最適な関わりができるようになることが期待される」と、研究グループは述べている。

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