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心筋梗塞でグリセロール代謝が促進されると判明、新規治療標的になる可能性-名大

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2021年12月15日 AM11:00

心臓のエネルギー代謝、虚血時に脂肪酸代謝から糖代謝にシフトする仕組みは?

名古屋大学は12月14日、心筋の虚血状態においてグリセロール代謝が活性化されることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科循環器内科学の石濱総太客員研究者、竹藤幹人病院講師、室原豊明教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The FASEB Journal」電子版に掲載されている。


画像はリリースより

近年、、高血圧などの心血管疾患における危険因子がより厳密に治療されてきたことで、心筋梗塞の発生率は減少してきている。しかし、心筋梗塞を含む心血管疾患は世界中で依然として主な死亡原因だ。以前より、心不全や心筋梗塞などの病的な状態では、糖代謝を中心としたエネルギー産生にシフトすることが知られているが、そのメカニズムに関してはいまだ不明な点が多くある。

今回の研究では、脂肪酸を分解する際に生成される副産物であるグリセロールに着目。心筋のグリセロール代謝の関与するリポプロテインリパーゼ(LPL)、アクアポリン7(AQP7)、グリセロール-3-リン酸デハイドロゲナーゼ2(GPD2)について、検討した。

LPL/AQP7/GPD2欠損マウス解析で、グリセロールが虚血時のエネルギー源と判明

マウスで心筋梗塞モデルを作製し、心臓でのLPL発現を観察。その結果、1時間後に発現の増加を認めた。また、心筋特異的LPLのノックアウトマウスとコントロールマウスの心筋梗塞1日後の心機能を比較したところ、心臓特異的LPLノックアウトマウスに、より心機能の低下が認められた。

マウスから単離した心筋細胞を通常酸素と低酸素条件下で培養し、グリセロールによる細胞生存率改善効果を検討。その結果、グリセロールは通常酸素条件下では心筋細胞の生存率を用量依存的に増加させ、低酸素条件下ではさらにその効果が増強された。このグリセロールの低酸素下での細胞生存率の改善効果は、AQP7のノックアウトマウスを用いた単離マウス心筋細胞では効果の減弱が認められた。また、AQP7のノックアウトマウスとコントロールマウスについて、心筋梗塞7日後の心筋梗塞の大きさを比較。すると、AQP7のノックアウトマウスで有意に心筋梗塞領域の増加が認められた。

続いて、グリセロール代謝と糖代謝のつなぎ目であるGPD2の働きに関して検討。GPD2は、ミトコンドリア膜上に局在することから、マウス心臓からミトコンドリアを単離しGPD2活性を評価した。心筋梗塞1時間後の心筋からミトコンドリアを単離し、GPD2活性を測定したところ、心筋梗塞後のミトコンドリアで有意にGPD2活性の亢進が認められた。単離マウス心筋細胞を用いて、心筋のエネルギー産生を比較。すると、正常酸素条件下ではグリセロールの有無で有意なエネルギー産生量の差を認めなかったが、低酸素条件下ではグリセロール非存在下ではエネルギー産生が有意に低下し、グリセロール存在下では有意にエネルギー産生が増加した。低酸素条件下でのグリセロールによるエネルギー産生効果は、GPD2阻害剤により用量依存的に抑制されたが、正常酸素条件下ではエネルギー産生に影響を与えなかった。GPD2のノックアウトマウスとコントロールマウスの心筋梗塞1日後の心機能を比較すると、GPD2のノックアウトマウス群では、心筋梗塞に伴う心機能低下と梗塞領域率の増加が認められた。

虚血条件下でグリセロール代謝活性化のメカニズム、今後も検討へ

今回の研究結果により、LPL/AQP7/GPD2を介したグリセロール代謝が心筋梗塞に対する新たな治療法の標的分子となることが示唆された。

虚血条件下においてグリセロール代謝が活性化されるメカニズムについては、今後の検討が必要であると考えられる、と研究グループは述べている。

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