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精子までの雄性生殖細胞の全分化過程、試験管内での再現に成功-京大ほか

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2021年09月09日 AM11:15

従来の再構成精巣法では、樹立したGSCLCsの精子分化寄与度が低いなど複数の課題

京都大学は9月8日、マウス多能性幹細胞()から、雄性生殖細胞の全分化過程を試験管内で再現することに成功したと発表した。この研究は、同大高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)の斎藤通紀拠点長/主任研究者/教授(同大学院医学研究科教授兼任)、同大学院医学研究科の石藏友紀子特定研究員、横浜市立大学大学院医学研究科臓器再生医学の小川毅彦教授、佐藤卓也同助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Stem Cell」のオンライン速報版に掲載されている。


画像はリリースより

生殖細胞は、哺乳類の体を構成する細胞の中で、次世代へと受け継がれ、新たな個体をつくり出すことが可能な唯一の細胞である。生殖細胞内の遺伝物質は、その細胞系列の中で減数分裂により多様性を付与されつつ、次世代の個体発生に十分な能力を持っている。生殖細胞系列の発生・分化には性分化をはじめ、エピゲノム情報の再構成、そして減数分裂など、さまざまな特徴的な過程が含まれる。生殖細胞は、種を維持し、進化させる原動力といえる。

この発生過程のメカニズムにアプローチするため、多能性幹細胞から生殖細胞系列の細胞を試験管内で誘導する試みが、四半世紀に渡って行われてきた。2011年、多能性幹細胞から精子や卵子の元となる始原生殖細胞を誘導する手法が確立され、それに続きオス、メス各々について配偶子分化過程の再現を目指す研究が行われてきた。メスについては、多能性幹細胞から始原生殖細胞を経て卵子を試験管内で誘導する手法が報告されている。一方、オスについては、多能性幹細胞から始原生殖細胞を経て、精子の前段階の細胞である、精子幹細胞を誘導する再構成精巣法が報告されている。

精子幹細胞は、生涯にわたり精子を産出する細胞で、成体の精巣内にわずかしか存在せず、生殖細胞系列で唯一の幹細胞といわれている。また、精子幹細胞は長期培養が可能であり、精子幹細胞株Germline stem cells(GSCs)と呼ばれている。従来の再構成精巣法は、目的とする精子幹細胞や精子幹細胞様細胞の長期培養株Germline stem cell-like cells(GSCLCs)の誘導に成功していた。しかし、途中解析が困難なこと、培養途中の分化速度が生体と比べて1週間ほど遅いこと、樹立したGSCLCsの精子分化寄与度が低い(18.8%)こと、GSCLCsから精子までの過程を試験管内で再構成していないこと、といった4つの課題があった。

培養方法の改善などにより再構成が実現、産仔に寄与する機能的な精子の誘導にも成功

研究グループは、これまで多能性幹細胞から始原生殖細胞様細胞を試験管内で誘導する手法を確立してきた。マウス生体において、始原生殖細胞は胎齢6.75日以降に、始原生殖細胞マーカー(標識)であるBlimp1、次いでStellaを発現し、その後、胎齢12.5日までに将来精巣となる生殖巣に移動し、生殖巣体細胞に囲まれて、オスになるためのシグナルを受ける。すると、生殖細胞は後期生殖細胞マーカーであるMvhを発現し、同時にエピゲノム情報の一つであるDNAのメチル化が、全ゲノム的に低下し、初期化状態となる。今回、研究グループはこれらの点に着目し、Blimp1、Stella、Mvhの3つの遺伝子レポーターを持つES細胞を用いて、始原生殖細胞様細胞を試験管内で誘導した。

次に、2017年に報告された始原生殖細胞培養法を用いて、得られた始原生殖細胞様細胞を、DNAのメチル化レベルが初期化状態となるまで培養した。この細胞を、従来の再構成精巣法から途中の培養液を改善した新・再構成精巣法にて、気相液相培養を行った。すると、途中過程の詳細な解析から、再構成精巣内の生殖細胞マーカーの変遷、転写産物、細胞周期、メチル化状態の変化が、オスのマウス生体と非常に似た状態であることが明らかになった。また、この方法で得られた精子幹細胞様細胞長期培養株(GSCLCs)は、90%以上(平均92.5%)の高効率で精子分化に寄与した。さらに、小川毅彦研究室との共同研究にて、体外精子誘導法を用いて、このES細胞由来のGSCLCsから、産仔に寄与する機能的な精子の誘導にも成功した。

世代を超えたエピゲノム情報継承メカニズムの解明へ

今回の研究は、新・再構成精巣法と体外精子誘導法を用いて、マウス多能性幹細胞から機能的な精子までを、完全な試験管内で再構成した初めての研究成果である。また、新・再構成精巣法では、細胞周期の停止と再開、脱メチル化(メチル化の初期化)と雄性メチル化状態の獲得、その過程で必要なレトロトランスポゾン制御など、雄の生殖細胞に特異的なイベントの解析へアプローチが可能となり、雄性生殖細胞分化メカニズム解明の可能性が広がった。「今後は、世代を超えたエピゲノム情報継承メカニズムの解明に向けて研究を進める予定だ」と、研究グループは述べている。

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