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次世代シーケンサーで全身性エリテマトーデス患者の腸内微生物叢を解明-阪大ほか

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2021年08月26日 AM11:45

日本人集団における腸内微生物叢と全身性エリテマトーデスとの関連を調査

大阪大学は8月25日、腸内微生物叢由来のゲノム(メタゲノム)に対して次世代シーケンサーによるショットガンシーケンスを行い、微生物情報と全身性エリテマトーデスとの関連を網羅的に探索・同定したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の友藤嘉彦大学院生(遺伝統計学)、前田悠一助教(呼吸器・免疫内科学)、猪頭英里大学院生(呼吸器・免疫内科学)、岡田随象教授(遺伝統計学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of the Rheumatic Diseases」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

全身性エリテマトーデスは、免疫系が自己を攻撃してしまうことによって発症する自己免疫疾患で、日本国内におよそ6~10万人の患者がいると推定されている。全身性エリテマトーデスの発症には環境因子と遺伝因子の双方が寄与すると考えられているが、発症機序の全容は明らかになっていない。

ヒトの腸内には数多くの微生物が存在し、腸内微生物叢を構成している。腸内微生物叢は免疫反応や代謝応答を介して体に大きな影響を与えており、関節リウマチをはじめとする多くの疾患との関連がすでに示されている。腸内微生物叢と免疫系に密接な関係があることから、腸内微生物叢は全身性エリテマトーデスの発症に寄与する環境因子の一つではないかと考えられてきた。しかし、これまでの研究では、腸内微生物叢のうちの一部しか解析することができておらず、全身性エリテマトーデスと腸内微生物叢の関連について、その全体像は把握されていなかった。また、ほとんどの研究が日本国外で実施されたものであり、日本人集団に適用可能か否かは不明だった。

メタゲノムショットガンシーケンスを利用したメタゲノムワイド関連解析は、疾患と腸内微生物叢との関連を網羅的に探索する手法。腸内微生物叢から得られる全てのゲノム情報(メタゲノム)を次世代シーケンサーによってシーケンスすることによって、網羅的な解析が可能になるほか、菌種、遺伝子、パスウェイなどのさまざまな情報を得られることが特徴だ。一方で、メタゲノムワイド関連解析を行うためには膨大なメタゲノム情報を処理するために多くの計算時間が必要であり、複雑な解析を行うためのバイオインフォマティクス技術も必要となる。そのため、メタゲノムワイド関連解析は非常に有用な解析手法であるのにもかかわらず、あまり広く普及していないのが現状だ。

メタゲノムショットガンシーケンスで微生物情報と全身性エリテマトーデスとの関連を網羅的に探索・同定

今回、研究グループは、日本人集団(全身性エリテマトーデス患者47人、健常者203人)の腸内微生物叢由来ゲノム(メタゲノム)に対して、次世代シーケンサーによるメタゲノムショットガンシーケンスを行った。そこで得られた大規模なゲノム配列情報に対し、遺伝統計学教室で独自に開発された、菌種・遺伝子・パスウェイなどの微生物情報を網羅的に取得するパイプラインを適用。そして、得られた微生物情報と全身性エリテマトーデスとの関連を網羅的に探索する、メタゲノムワイド関連解析を実施した。

患者の腸内微生物叢でStreptococcus属の細菌が増加、病態への関与も示唆

その結果、全身性エリテマトーデス患者の腸内微生物叢において、Streptococcus属に属する2種の細菌(Streptococcus anginosus and Streptococcus intermedius)が増加していることが判明した。これらの菌種が全身性エリテマトーデスの病態に関与している可能性が考えられるという。

また、全身性エリテマトーデス患者の腸内微生物叢では菌の多様性が低下しており、腸内微生物叢の破綻(ディスバイオシス)が起きていることも示された。これまでに、炎症性腸疾患などの多くの疾患にディスバイオシスが関与していることが示されてきたが、同研究によって、全身性エリテマトーデスの病態にもディスバイオシスが寄与している可能性が示唆された。

患者腸内で増加した細菌がアシルカルニチンを介し異常な免疫反応の活性化に寄与している可能性

さらに、全身性エリテマトーデス患者と健常者の間とで、腸内微生物叢由来の遺伝子・パスウェイについて比較を行ったところ、全身性エリテマトーデス患者では酸化還元反応に関与する遺伝子が増加しており、かつ、硫黄代謝や鞭毛の形成に関与するパスウェイが変動していることが判明。これらの遺伝子・パスウェイを介した腸内微生物叢と免疫系との関連が、全身性エリテマトーデスの病態に関与している可能性が考えられるという。また、パスウェイ解析の結果をゲノムワイド関連解析の結果と統合して解析を行ったところ、メタゲノムとヒトゲノムとの間で、全身性エリテマトーデスに関与するパスウェイが共有されていることが明らかになった。

腸内微生物叢はしばしば、ヒトの血中代謝物の濃度に大きな影響を与えることが知られている。そこで、メタゲノム解析の結果と質量分析計で取得した血中代謝物情報とを統合することにより、腸内微生物叢と血中代謝物との関連を探索した。その結果、Streptococcus intermediusとアシルカルニチンとの間に存在する正の相関が見出された。この結果から、全身性エリテマトーデス患者で増加していたStreptococcus intermediusがアシルカルニチンを介して、異常な免疫反応の活性化に寄与している可能性が示唆された。

同定された菌種・遺伝子・血中代謝物は治療標的やバイオマーカーとして期待

今回の研究成果により、全身性エリテマトーデス患者における腸内微生物叢の全体像が明らかにされた。また、メタゲノム解析の結果と血中代謝物情報との統合解析によって、メタゲノム関連解析で同定されたStreptococcus intermediusの量が、血中アシルカルニチン濃度と正の相関関係にあることが判明した。

「研究で同定された菌種・遺伝子・血中代謝物については培養実験や動物実験などのさらなる検証を進めることで、全身性エリテマトーデスにおける治療標的としての可能性を評価することが可能であると考えられる。また、今回明らかになった、全身性エリテマトーデス患者の腸内微生物叢の特徴は、診断に利用可能なバイオマーカーとして利用可能であることが期待される」と、研究グループは述べている。

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