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がんの新規精密分子標的薬候補を発見、免疫抑制せずmTORC1だけに作用-理研ほか

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2021年08月02日 AM11:15

」だけに作用する化合物を探索

(理研)は7月30日、がん細胞中で異常に働くプロテインキナーゼ(タンパク質リン酸化酵素)をピンポイントで阻害し、がん細胞の増殖を阻害する化合物を発見したと発表した。この研究は、理研開拓研究本部伊藤ナノ医工学研究室の宮武秀行専任研究員(埼玉大学連携准教授)、伊藤嘉浩主任研究員、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(医)病理学(免疫病理)の松川昭博教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Medicinal Chemistry」の掲載に先立ち、オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

がんは、1980年代から継続して日本人の死因の第1位。急速に進む超高齢化社会を迎え、がんによる死者数は増え続けており、2019年には37万6,392人に達している。がんの克服は日本だけでなく、世界共通の課題といえる。がん治療では、手術のほかでは抗がん剤の使用が主な方法の一つだが、副作用や薬剤耐性が深刻な問題となっている。そのため、より副作用の少ない、優れた抗がん剤の開発が常に求められている。

がん細胞では、プロテインキナーゼの働きが過剰なために、異常に細胞増殖する場合が多く見られる。そのため、プロテインキナーゼの作用を抑えるいくつかの化合物が抗がん剤として使用されている。ただし、ヒトに存在する500種類以上のプロテインキナーゼは、抗がん剤と作用する部分の構造が類似しているために、特定のプロテインキナーゼだけに作用する抗がん剤の開発は困難だった。そこで研究グループは、がん細胞中で過剰に働くプロテインキナーゼの一種である「mTORC1」だけに作用する化合物の探索を試みた。

in silico/in cell複合選択法で「」を選定

研究グループは、コンピュータを用いたドッキングシミュレーションと、細胞内相互作用アッセイを組み合わせた化合物スクリーニング法(in silico/in cell複合選択法)を用いて、次の手順により、約70万種類の化合物の中から目的化合物を選出した。

まず、mTORC1のFRBドメイン、、およびFKBP12の3者複合体結晶構造(PDB ID: 1FAP)をコンピュータ内に再現した。次に、バーチャルリガンドライブラリー「ZINC15」から、分子量500前後の化合物を約70万種類選び出し、ラパマイシン結合部位を標的として、ドッキングシミュレーションを行った。その結果、高いドッキングスコアを持つ、3種類の化合物(WRX513、WRX939、WRX606)が選び出された。そして、ヒト細胞(HEK293)を用いて、これらの化合物が実際にFRBとFKBP12に結合するかを調べたところ、「WRX606」だけが細胞内でFRB-WRX606-FKBP12の3者複合体を形成することがわかった。

mTORC1だけに選択的に作用、ラパマイシンよりも高い抗がん効果が示唆

そこで、WRX606が細胞内でmTORC1のキナーゼ活性を抑えるかを調べたところ、WRX606は、mTORC1の基質(リン酸化されるタンパク質)であるS6K1と4E-BP1の両方のリン酸化を阻害することが判明。一方、同様の結合様式を持つラパマイシンは、S6K1のリン酸化だけを阻害し、4E-BP1は阻害しなかった。S6K1と4E-BP1はどちらも細胞増殖に関わるタンパク質であるため、その両方を阻害するWRX606の方がラパマイシンよりも抗がん効果が高いことが示唆された。

さらに、WRX606のがん細胞への効果を調べたところ、WRX606はがん細胞(HeLa子宮頸がん細胞)に選択的に作用し、正常細胞(NRK-49F細胞)にはほとんど影響を与えないことがわかった。これは、WRX606がmTORC1だけに選択的に作用し、他のプロテインキナーゼには結合しない、つまりピンポイントに作用する精密な分子標的薬であることを示唆している。

マウスでラパマイシンよりも優れたがん抑制効果、がん細胞の転移も少ない

次に、マウスの表皮に乳がん細胞を移植し、そのサイズを測定することで抗がん効果を評価。また、肺に転移したがんコロニー数により、抗がん剤によって促進されるがん転移についても評価した。その結果、WRX606はラパマイシンよりも優れたがん抑制効果を示し、がん細胞の転移も少ないことがわかった。一方、抗がん効果のほかに免疫抑制効果によるがん細胞転移の副作用が知られているラパマイシンは、今回の実験でもがん細胞の肺転移が多数観察された。

これまで、mTORC1は抗がん剤開発のターゲットではあったものの、ATP競合結合型阻害剤ではピンポイントにキナーゼ活性を阻害することは困難だった。オプジーボなどのモノクローナル抗体による抗がん剤は、ピンポイントの阻害効果が得られるが、製造に高いコストがかかる、アレルギー反応が生じやすく経口投与できないなどの欠点がある。今回発見されたWRX606は低分子化合物であるため、有機合成することで安価に製造でき、経口投与も可能だ。

また、ラパマイシンとその誘導体は、mTORC1以外のプロテインキナーゼに結合しないものの、免疫抑制効果を併せ持つため、がん細胞の転移を誘発しやすく、抗がん剤としての薬効は限定的だった。「今回初めて、免疫抑制効果を持たない、mTORC1だけに作用する精密分子標的薬候補が発見されたことは、今後の効果的な新しい抗がん剤の開発につながるものと期待できる」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

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