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思春期特発性側弯症の発症・重症化予測モデル開発、日本人ゲノム解析で-理研ほか

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2021年06月25日 AM11:30

重度AIS治療は侵襲が大きく、発症・進行予防法、治療法の確立が急務

(理研)は6月24日、大規模な日本人集団の遺伝子多型から思春期特発性側弯症(Adolescent idiopathic scoliosis:)の発症や重症化を予測する手法を新たに開発したと発表した。この研究は、同研究所生命医科学研究センターゲノム解析応用研究チームの大伴直央客員研究員(研究当時:慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程)、寺尾知可史チームリーダー、骨関節疾患研究チームの池川志郎チームリーダーら、慶應義塾大学医学部整形外科学教室の松本守雄教授、渡辺航太准教授を中心とした日本側彎症臨床学術研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Bone and Mineral Research」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

側弯症とは、脊椎が三次元的にねじれて体幹に変形を来す疾患。多くの場合は、原因が特定できないため特発性側弯症と呼ばれ、発症時期などにより3タイプに分けられている。そのうち、10歳以降の主に女児に見られるAISは最も発症頻度が高く、全世界の人口の2~3%の割合で発症する。日本人においても同様に人口の2~3%が発症し、側弯の学校検診が学校保健法で義務付けられている。変形が進行すると、腰痛や背部痛、呼吸障害が生じ、また容姿の変形から精神面にも悪影響を及ぼす。重度のAISの治療には、侵襲が大きく脊椎の可動性が制限される脊椎矯正固定術しかないことから、発症・進行の予防法、および治療法の確立が待ち望まれている。

多因子遺伝病のAIS、全遺伝子多型をリスク評価に用い予測モデルを開発

AISは、遺伝的因子と環境因子の相互作用により発症する多因子遺伝病。国際共同研究グループはこれまでに、(GWAS)によりAISに関連する疾患感受性遺伝子や遺伝子多型を世界に先駆けて報告してきた。

しかし、これまでに見つかった遺伝子多型では発症リスクを十分に予測できないことから、AISの発症や重症化例を早期に同定できる予測モデルを開発し、臨床現場に応用する必要がある。そこで今回、共同研究グループは、どの遺伝子多型が発症と関連するかではなく、全ての遺伝子多型をリスク評価に用いるというリスク計算に重点を置いたアプローチを取ることにした。

女性日本人集団(AIS患者5,004人、非患者3万7,597人)遺伝子情報で個々のPRSを計算

研究グループは、慶應義塾大学医学部整形外科学教室の松本守雄教授、渡辺航太准教授を中心とする側弯症の専門医集団で構成された日本側彎症臨床学術研究グループによる厳格な診断基準を用いて、これまで6,000例を超える検体とその臨床情報を収集してきた。これは、AISの研究コホート(集団)としては世界最大規模だ。

まず、AISは女性に多く発症することから、対象を女性に限定。女性日本人集団(AIS患者5,004人、非患者3万7,597人)の遺伝子情報を用いて、個々の「ポリジェニック・リスク・スコア(PRS)」を計算した。PRSは遺伝統計学で疾患の発症リスクと相関することが示されている。AIS患者群のPRSの分布は非患者群のPRSの分布よりも有意に高得点であることから、女性日本人集団内でスコアの分布を調べることで、特に疾患のリスクが高い個人を特定できる。計算したPRSの数値を基に、AIS患者と非患者の情報からAIS発症の予測モデルを作成し、その予測能を検証した。

PRS+BMIで発症予測、重症化予測モデル作成にも成功

その結果、PRSの高リスク群におけるAIS発症のリスクは、PRSの平均群(一般集団の平均と仮定)におけるAIS発症のリスクと比較してオッズ比(AISの発症リスク)が4.0倍だった。この結果から、この予測モデルが有効であることが確認された。

疫学研究により、AIS患者は非患者に比べるとBMI(肥満の指標)が低い、つまり痩せ型が多いことが知られている。そこで、このBMIの値を予測モデルに組み込んだところ、予測能が向上。このときのAUC(予測能を測る指標)は0.7であり、臨床的に許容できる値だった。また、この予測モデルを以前のGWAS研究で判明しているAISの発症に遺伝的に関連性の深い領域の遺伝子情報だけを用いて作成し直した結果、より少ない遺伝子情報だけでモデルの精度を向上させることに成功。この結果は、今後、AISの原因組織や新しい疾患感受性遺伝子座位を同定することで、より精度の高い予測モデルへ更新できる可能性を示している。

さらに同様の方法で、軽症と重症のAISの情報から重症化する例の予測モデルを作成。その結果、重症化のPRSが高いリスク群では、低リスク群に比べてAIS重症化のオッズ比が3.3倍であることが確認された。また、BMIは主にAISの発症に影響し、重症化には影響しない可能性が示された。

AIS新規治療戦略の開発に期待

今後、本研究結果が前向き研究でも再現されれば、個別化医療への応用・発展が期待される。同時に、BMIのようなAISと関連がある臨床のパラメーターをさらに予測モデルに組み込むことで、モデルの予測精度が向上すると考えられるという。

また、海外のAIS研究グループと協力し、本研究結果が他人種でも再現された場合、世界的なAISの新たな治療戦略となり得るものと期待できる、と研究グループは述べている。

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