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先天性CMV感染症、胎児+新生児治療で後遺症軽減の可能性-手稲渓仁会病院ほか

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2021年01月12日 PM01:00

免疫グロブリン製剤の胎児治療+抗ウイルス薬の新生児治療で後遺症は軽減できるか?

神戸大学は1月8日、症状が明らかな先天性サイトメガロウイルス()感染症に対して、胎児期から免疫グロブリン製剤を使った胎児治療を受け、さらに、生まれた後にも抗ウイルス薬による新生児治療を受けた子どもの方が、新生児治療のみを受けた子どもよりも重い後遺症が生じる割合が減ることを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、手稲渓仁会病院不育症・ゲノム医療センター長の山田秀人(大阪大学招聘教授)、神戸大学大学院医学研究科の谷村憲司准教授(産科婦人科学分野)、藤岡一路講師(小児科学分野)、日本大学医学部の森岡一朗教授(小児科学系小児科学分野)らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学雑誌「Journal of Reproductive Immunology」でオンライン掲載されている。


画像はリリースより

CMVは、胎児に感染することで、子どもに難聴、精神や運動の発達障害といった後遺症が生じる先天性CMV感染症を引き起こすことがある。日本では年間1,000人の先天性CMV感染症の子どもが生まれていると推定されている。特に、胎児発育不全、小頭症、脳室拡大、肝腫大、胸水や腹水などの先天性CMV感染症に特徴的な症状を持つ子どもの9割に難聴、精神や運動の発達障害などの重い後遺症が生じるとされている。

近年、先天性CMV感染症に特徴的な症状をもって生まれた症候性感染児に抗ウイルス薬バルガンシクロビルを使った新生児治療を行うことで、難聴だけでなく、精神や運動の発達の遅れが軽くなることがわかってきており、日本でも、この新生児治療を保険診療として行えるように治験が行われている。

一方、胎児期に、胎児超音波検査などによって、明らかな症状をもった先天性CMV感染症(症候性感染)に罹っていることが診断される場合がある。このような症例は、生まれてから先天性CMV感染症と診断できる子どもよりもずっと重症であることが簡単に想像される。

これまでに、血液製剤の免疫グロブリン製剤を症候性の先天性CMV感染症と診断された胎児の母親の血管内、羊水の中、へその緒の血管内や胎児のお腹の中に注入する、抗ウイルス薬バラシクロビルを妊婦に内服するといった胎児治療の効果についての報告がある。しかし、これらの報告では、先天性CMV感染症の明らかな症状がない(無症候性)胎児や非常に軽い症状しか持たない胎児も治療対象になっており、重症の先天性CMV感染症の胎児に有効かということについては明確な答えは得られていない。そのため、先天性CMV感染症に対する確立した胎児治療がないのが現状だ。

山田秀人氏らは、1996年に世界で初めての症候性の先天性CMV感染症の免疫グロブリン胎児治療を実施。その後、多施設共同研究によって、12症例の免疫グロブリン胎児治療の有効性を報告した。しかし、これまでは胎児治療のみ、新生児治療のみの効果を別個に調べた報告しかなく、胎児治療と新生児治療を組み合わせた場合の効果について調べた報告はなかった。

そこで、研究グループは、症候性の先天性CMV感染症に対する免疫グロブリン製剤を用いた胎児治療と、抗ウイルス薬による新生児治療を一貫して行うことで先天性CMV感染症に罹った子どもの後遺症を軽くすることができるかどうかを調べた。

神戸大学病院でそれぞれの治療とその予後を検討

研究グループは、神戸大学医学部附属病院(以下、神戸大学病院)において、妊婦とその夫に対し、治療に関する十分な説明を行い、同意を得た上で胎児治療や新生児治療を実施した。

胎児期の先天性CMV感染症は、胎児超音波検査で先天性CMV感染症に特徴的な症状があり、かつ、妊婦のお腹に針を刺して取ってきた羊水をPCR検査で調べてCMVが羊水の中にいることを証明することで診断。妊婦とその夫が希望した場合、免疫グロブリン製剤を胎児へ腹腔内投与、もしくは、母体静脈内投与による胎児治療を行った。胎児治療の効果が認められた場合は治療を続け、効果が認められなければ、早く新生児治療を行う目的で、在胎32週以上、かつ、胎児の体重が1200g以上になった時点で出産を考慮。胎児治療を受けて生まれてきた全ての子どもに超音波検査、CT検査、聴性脳幹反応検査、眼底検査などの検査を実施。その結果、先天性CMV感染症の症状があり、かつ、子どもの尿をPCR検査で調べてCMVが陽性であれば、バルガンシクロビルというCMVに効き目のある抗ウイルス薬を子どもに内服させる新生児治療を行った。先天性CMV感染症の症状がない場合には、PCR検査陽性であっても新生児治療は実施しなかった。

一方、別の病院で生まれてから先天性CMV感染症と診断されて神戸大学病院の小児科に搬送されてきた場合、胎児期に診断が付いていたものの妊婦とその夫が胎児治療を希望しなかった場合や早産で胎児治療が間に合わなかった場合には、結果的に新生児治療のみを受けることなった。また、神戸大学病院といくつかの関連病院では、子ども全員に対して尿のPCR検査を行い、先天性CMV感染がないかを調べている。そこで初めて先天性CMV感染が判明し、詳しい検査によって症状が見つかった場合も同様に、新生児治療のみを受けることになった。

研究グループは、神戸大学病院で胎児治療と新生児治療の両方もしくは胎児治療のみを受けたグループ(胎児治療群)と新生児治療のみを受けたグループ(新生児治療のみ群)の子どもを長期間フォローアップ。1歳半と3歳になった時点での難聴の有無、難聴があれば片耳だけか両耳か、神経系の異常がないかを調べるための診察や発達指数によって、子どもたちの神経学的予後を正常、軽い後遺症、重い後遺症の3つに分類し、胎児治療群と新生児治療のみ群との間で予後に差があるかを調べた。

今回、2009~2019年の10年間に15症例が胎児治療を受けた。胎児治療によって胎児発育不全だった6例中4例で胎児の体重増加を認め、1例で脳室拡大と肝腫大が消え、1例で腹水が一時的に消えた。また、7例で羊水の中のCMVの量が減る、もしくは、消え、1例で腹水中のCMVが消えた。2例は大量の腹水や胸水に圧迫されて肺が育たず、呼吸ができないために生まれてすぐに死亡。1例は、生まれた後に調べた尿のPCR検査は陽性だったが、胎児期にあった脳室拡大と肝腫大が消え、症状がなかったために新生児治療は行われなかった。この3例以外の12症例は胎児治療と新生児治療の両方を受けていた。一方、同じ期間に新生児治療のみを受けた子どもは19症例いたが、うち、1例は在胎24週の超早産児であったために、生後約1か月で死亡し、新生児治療を完遂できなかった。

子どもたちの長期的な神経学的予後を比べる際に、死亡したり、まだ1歳半に満たなかったり、両親が診察を拒否したりしたなどの理由で1歳半の発達評価ができなかった子どもたち(胎児治療群4例、新生児治療のみ群3例)、および、新生児治療のみ群のうち、網脈絡膜炎の症状だけの子ども2例は、そもそも、胎児期には診断できず、胎児治療の対象になり得ないため、最終的な解析からは除外したとしている。

重い後遺症を持つ子どもは胎児治療群18.2%、新生児治療のみ群64.3%

研究の結果、1歳半もしくは3歳時の発達が正常だった子どもの割合は、胎児治療群45.5%(11人中5人)に対し新生児治療のみ群21.4%(14人中3人)で、胎児治療群で高いものの、統計学的に有意な差があるまでには至らなかった。

一方、重い後遺症を持つ子どもの割合は、胎児治療群18.2%(11人中2人)に対し新生児治療のみ群64.3%(14人中9人)であり、胎児治療群で統計学的にも有意に低いことがわかった。

長期的な神経学的予後改善の可能性、今後は二重盲検試験実施などが必要に

今回の研究により、先天性CMV感染症と診断された胎児に対し、免疫グロブリン製剤を用いた胎児治療と生まれた後に抗ウイルス薬による新生児治療を行うことで長期的な神経学的予後を改善できる可能性を世界で初めて示したとしている。

今後の課題として、薬などを使った治療法の有効性を証明するには二重盲検試験などが必要になる。一方、胎児期からすでに先天性CMV感染症であることがわかっている症例に対して治療を行わなければ予後が悪くなることが明らかなため、プラセボを使用することは倫理的に許されないことや、また、今回の胎児治療は、臨床研究に関する法律が新しく制定された後は、自費診療として行われており、費用面の問題がある。

今回の研究成果がきっかけとなり、先天性CMV感染症に対する免疫グロブリン製剤やそれ以外の薬剤を用いた胎児治療法についての研究が進み、保険診療として認可され、この病気の後遺症に苦しむ子どもの数が減ることが期待される、と研究グループは述べている。

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