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小脳の正常な発達にAUTS2遺伝子が重要と判明-NCNPほか

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2020年12月21日 PM12:15

さまざまな精神疾患に関わるAUTS2遺伝子、小脳での役割は?

(NCNP)は12月18日、自閉症や知的障害、統合失調症など、さまざまな精神疾患に関わるAUTS2遺伝子の小脳発達に果たす重要な役割を明らかにしたと発表した。この研究は、NCNP神経研究所病態生化学研究部の星野幹雄部長、堀啓室長および東京医科歯科大学後期博士課程の山城邦比古氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」に掲載されている。


画像はリリースより

AUTS2遺伝子(autism susceptibility candidate2)は、2002年に自閉症を患う一卵性双生児で異常が見つかったことから、初めて自閉症との関連性が示唆された。その後、この遺伝子の異常が自閉症に加え、統合失調症や知的障害、ADHD(注意欠如・多動症)、てんかんなどさまざまな精神・神経疾患患者でも見つかり、AUTS2遺伝子が広く精神発達障害に関わることが示唆されてきた。この遺伝子から生み出されるAUTS2タンパク質は神経細胞の核や細胞質に存在しているが、長らくAUTS2タンパク質の機能については明らかにされず、この遺伝子の異常がどのように精神疾患を引き起こすのかはわかっていなかった。

星野氏、堀氏らの研究グループは2014年、細胞質に存在するAUTS2が細胞骨格系タンパク質を介して細胞の形態や動きを制御することで、発達中の大脳皮質で起こる神経細胞の移動や神経突起の伸展などを調節するタンパク質であることを初めて明らかにした。さらに最近では、シナプスの形成やその維持にもAUTS2が重要な役割を果たしていることを明らかにしている。また、核に存在するAUTS2が、さまざまな遺伝子の発現を調節する転写調節因子としても働くことが報告されている。AUTS2は大脳の前頭前野や海馬といった、脳の中でも特に高いレベルの精神機能(記憶、学習、意思決定やコミュニケーションなど)に関わる脳部位に強く発現していることから、これまでは主に大脳や海馬を対象として研究が進められてきた。一方で、AUTS2は小脳にも強く発現しているが、その役割については全く分かっていなかった。また、小脳でのAUTS2の機能が失われることで、精神活動にどのような影響を及ぼすかについても明らかにされていなかった。

KOマウスは小脳が小さく、プルキンエ細胞が形態異常

今回、研究グループは、小脳が発達していく過程でAUTS2がどのような役割を担うのかを調べるため、小脳を含むごく一部の脳組織のみでAuts2遺伝子を破壊した遺伝子改変マウス(Auts2コンディショナルKOマウス)を作製した。このAuts2 KOマウスの脳を観察したところ、正常なマウスと比べて小脳が明らかに小さくなっていることがわかった。

正常な小脳では、プルキンエ細胞とゴルジ細胞という2種類の神経細胞のみにAUTS2が発現している。小脳の主要な出力細胞であるプルキンエ細胞は、大きな細胞体と複雑多岐に枝分かれした樹状突起を持つ、非常にユニークな形態を示す神経細胞の1つだが、Auts2 KOマウスではこのプルキンエ細胞の数が少なくなっていることがわかった。小脳は大部分が顆粒神経細胞によって占められているが、プルキンエ細胞は顆粒神経細胞の増殖を促すことで、小脳サイズを調節する役割も担っている。つまり、Auts2 KOマウスではプルキンエ細胞が減ってしまったことにより顆粒神経細胞の増殖がうまくいかず、結果的に小脳が小さくなったと考えられた。また、Auts2 KOマウスのプルキンエ細胞は樹状突起の成長速度が遅く、枝分かれ構造の乏しい未熟な細胞形態を示していた。さらに、プルキンエ細胞の成熟に伴って発現するいくつかのマーカー遺伝子(Cacna1aなど)の発現量も低下していることから、AUTS2はプルキンエ細胞の成熟に関わるさまざまな遺伝子の発現調節を行うことで、プルキンエ細胞の成熟を促す働きがあるのではないかと考えられた。

小脳の神経系ネットワーク形成が破綻していた

プルキンエ細胞は、小脳内で処理された情報を上位の脳へと伝える唯一の出力細胞として働く。この情報伝達は神経細胞同士をつなぐ「興奮性シナプス」を介して行われるが、プルキンエ細胞には2種類の興奮性シナプスが形成される。1つは、下オリーブ核から投射される神経繊維との間に「登上繊維シナプス」を、もう1つは小脳内の顆粒神経細胞から伸びる神経繊維との間に「平行繊維シナプス」を作る。登上繊維シナプスはその名の通り、プルキンエ細胞の樹状突起に沿って入力繊維が登上しながら、プルキンエ細胞の樹状突起上にシナプスを形成していく。この登上繊維シナプスの進展速度がAuts2 KOマウスでは非常に遅く、結果的に完成された小脳では、登上繊維シナプスの数が少なくなっていた。またこれとは逆に、平行繊維シナプスは通常よりも過剰に作られていることがわかった。一方で、抑制性シナプスに対してはこのような障害は見られなかった。つまり、Auts2 KOマウスの小脳では、プルキンエ細胞を介した神経系ネットワークの興奮性/抑制性バランスが破綻していると考えられた。このような現象は以前にも、海馬や大脳皮質の神経細胞でも共通して見られており、AUTS2がさまざまな脳領域に共通したメカニズムによってシナプス形成に関わっている可能性が示唆された。

Auts2 KOマウスは運動学習障害に加え自閉症様症状

さらに、Auts2 KOマウスは歩行などの基本的な動作については目立った障害は示さないものの、難しい運動課題を学習する能力が低下していた。また興味深いことに、Auts2 KOマウスは仲間のマウスと音声(鳴き声)を介したコミュニケーションがうまく取れないなど、自閉症によく似た症状も示すことがわかった。つまり、小脳でのAUTS2の機能が失われると、運動制御のみならず、コミュニケーション能力など、より高次の精神機能も障害されることが示された。

これまで、小脳は主に身体の動きをコントロールしたり、新しい動作を学習したりといった、運動を制御する器官であると考えられてきた。しかし最近の研究から、知覚情報の統合や情動の制御、コミュニケーションといった高次の精神活動にも小脳が関わることが示唆されている。また、小脳機能障害によって運動失調をきたす患者には、自閉症様の症状がみられる場合もあることから、小脳の機能障害と精神疾患との関連性についても盛んに研究が行われている。しかしながら、現在のところまだその詳しいメカニズムについては明らかになっていない。研究グループは、今回の成果について、「さまざまな精神疾患に関わるAUTS2遺伝子の小脳発達に果たす役割を明らかにしたことで、今後、小脳の機能障害によって引き起こる運動失調や自閉症などの病態解明や治療法の開発につながるものと考えられる」と、述べている。

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