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妊娠初期から発達する父親の親性脳の活動パターンに個人差があることを発見-京大ほか

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2020年12月04日 PM01:00

父親の親性脳発達の個人差を、2種類のホルモン値と心理・行動特性で検証

京都大学は12月2日、妊娠初期から発達する父親の「親性」脳の活動を確認したと発表した。この研究は、同大大学院教育学研究科の明和政子教授、DIAZ-ROJAS Françoise同PD研究員、麻布大学の菊水健史教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「NeuroImage」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

現代の日本社会では、育児は母親1人に集中するケースが圧倒的に多くなっており、共同養育者である父親の親としての脳と心(親性)を育むことが必須課題となっている。これまで行われた基礎研究から、育児に関する刺激(例:乳児と親が遊んでいる場面を映した動画)を見せると、脳内のある特定の領域が活動することがわかっている。これらの複数の領域をまとめて「(parental brain)」と呼ぶ。乳児を持つ男性では、育児経験を蓄積することで親性脳が可塑的に変容・発達(親性脳ネットワークの賦活)することが示されている。しかし、実際の日常場面を振り返った場合、父親の育児動機や、実際の育児への関わりの程度には、かなりの個人差がみられる。その背景にある問題として、父親の親性脳が、「いつからどのように発達するのか」「そこにはどの程度の個人差がみられるのか」について全く明らかになっていないということがあった。

父親の育児に対する心的、行動特性の個人差に関連すると考えられる要因のひとつに、内分泌ホルモンの影響がある。テストステロンやオキシトシンは、ヒトを含む生物の育児行動に関連する。特に、生物学的オス(男性)のテストステロンは、パートナー(生物学的メス・女性)の妊娠期間を通して低下する。しかし、ヒトでは一貫した結果は得られていない。

研究グループは今回、初産で妊娠中のパートナーを持つ男性と、子どもを持つ予定のない男性を対象に、育児をしている場面を映した動画を視聴してもらい、その間の脳の活動をfMRIで計測した。さらに、養育行動に関わるとされる2種類のホルモン値()と、心理・行動特性(例:育児に対するイメージ)についても調べ、それらが親性に関わる脳活動パターンとどのように関連するかを検証した。

「初産妊娠初期のパートナーを持つ父親群」と「子を持つ予定のない男性群」に分け、3つの課題を実施

研究では、初産妊娠初期(妊娠週数20週未満)のパートナーを持つ父親(父親群)と、子を持つ予定のない男性(統制群)、各群36人(計72人)を対象に3つの課題を行った。

まず、functional magnetic resonance imaging()により、脳活動を測定。育児に関する動画2種類(実験条件:おむつ交換・乳児との遊び)と、育児に関連しない動画2種類(統制条件:箱を包む・箱を開ける)をfMRIの中で提示し、統制条件に比べ、実験条件で強く活動した脳領域を調べた。次に、参加者の唾液を採取し、テストステロンとオキシトシンのホルモン値(濃度)を測定。さらに、育児に関する心理・行動特性を調べる質問紙とインタビュー調査を行った。なお、質問内容には「父子間アタッチメント」「育児に対するイメージ」「過去の養育経験」「週当たりの勤務時間」が含まれている。

これら3つの側面の相互関係を検討するため、まず、「一般線形モデル」を用いて、上記3つの指標間の関係を調べた。続いて、それぞれの実験参加者の脳活動変化をより詳細に調べるため、「マルチボクセルパターン分析」と呼ばれる手法を用いて解析。ここでは、「親性脳の各領域の活動パターンから、機械学習により、父親群と統制群が分類されるか」「親性脳の各領域の活動パターンと、心理行動特性やホルモン値に関連がみられるか」の2点について調べた。

両群ともに親性脳の活動が確認されるも、活動パターンは特定の行動と関連して「大きな差」

その結果、主に以下の3点が明らかとなった。

(1)父親群、統制群によらず、男性は育児に関する動画に対して、親性脳領域が強く活動した
これまで、子どもを持つ予定のない男性では、親性脳が活動するという報告はなかった。これは、子どもを実際に持つ(予定がある)か否かにかかわらず、「親性」に関わる脳機能を、男性が潜在的に持つことを示している。

(2)父親群と統制群では、島(とう)と呼ばれる脳領域の活動に差異がみられた
父親になる予定がある男性の親性脳の発達は、パートナーの妊娠中からすでに始まっていると言える。

(3)親性脳の活動パターンには大きな個人差がみられた
個人差は、「育児に対するイメージ」「一週間あたりの平均勤務時間」「最近の育児経験(乳幼児との交流経験)の有無」といった、ある特定の行動と関連していることが明らかとなった。他方、テストステロンとオキシトシン値の個人差については、親性脳の個人差との関連はみられなかった。

科学的エビデンスに基づく子ども・子育て支援の実現が、少子化対策に寄与する可能性

今回の研究成果により、生物学的男性である父親の親性脳の成熟は、妊娠期からゆっくりと発達が始まること、ただし、それには大きな個人差が存在することが、世界で初めて明らかにされた。

この科学的エビデンスをふまえ、今後は、妊娠初期にみられる父親の親性脳の活動パターンは、実際に子どもが生まれた後、どのように、どの程度変容するのか、それは、男性の日常の育児行動や心理的側面、ホルモン値とどのように関連するかを解き明かす必要がある。それが実現できれば、それぞれの個性に合わせて、母親だけでなく、父親も親としての脳と心を発達させる「個別型の」支援を行うことが可能となる。

子どもが出まれてからではなく、パートナーが妊娠中の時期から、個々の女性、男性の脳と心、行動特性に合わせて、両者の親性発達を支援する取り組みの実装は急務だ。「科学的エビデンスに基づく子ども・子育て支援の実現は、パートナーや子どもを含む家族の幸福度、さらには次子を持ちたいという出産意欲を向上させるはずだ。これは、日本の少子化対策に大きく寄与するものだ」と、研究グループは述べている。

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