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大腸がんの進行、線維芽細胞の多様性により制御-名大ほか

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2020年12月02日 PM01:15

BMPがどのように間質細胞により調節され、大腸がん進展に影響を与えるのか?

名古屋大学は11月19日、大腸がんの進行が線維芽細胞の多様性により制御されていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の小林大貴大学院生(・アデレード大学国際連携総合医学専攻/ジョイントディグリープログラム)、榎本篤教授、髙橋雅英名誉教授ら、豪アデレード大学のSusan Woods博士、南オーストラリア健康医学研究所のDaniel Worthley博士、藤田医科大学の浅井直也教授らとの研究グループによるもの。研究成果は、米国消化器病学会「Gastroenterology」オンライン版に掲載されている。

がんでは、その周囲部にがん細胞以外の間質細胞が存在する。間質細胞のうち、線維芽細胞の増生が大腸がんの進展に著しい影響を与えていることが、今までの研究から示されている。がん組織の中に存在する線維芽細胞は、がん関連線維芽細胞(Cancer-associated fibroblasts:CAF)と呼ばれ、がんを促進する「がん促進性線維芽細胞」とがんを抑制する「がん抑制性線維芽細胞」の2種類あることが、近年の研究から示唆されている。しかし、どのような分子機構により、これらの機能的な違いが決定されるのかは明らかではない。このため、特定のCAFを標的とする効果的な治療法の開発は困難を極めている。

大腸を含む多くの正常臓器において、間質細胞や上皮細胞が分泌する骨形成因子(bone morphogenetic protein:BMP)は、生理的状態の維持に重要であることが知られている。例えば、正常大腸においては、間質細胞が繊細に調節するBMPの濃度勾配により、大腸上皮細胞の増殖・分化が正常に保たれている。一方、大腸がんにおいては、BMPがどのように間質細胞により調節され、それがどのように大腸がん進展に影響を与えるのかは明らかではなかった。


画像はリリースより

大腸がんCAFでの特異的BMP関連遺伝子、メフリンとグレムリン1を同定

今回、研究グループは、大腸がん組織中の異なるCAFに発現するメフリン(別名:ISLR)とグレムリン1が、大腸がんのBMPのシグナルを調節することにより、それぞれ、がんを抑制および促進することを明らかにした。

まず、網羅的な遺伝子解析データを用いて、大腸がんのCAFでの特異的なBMP関連遺伝子として、メフリンとグレムリン1を同定。研究グループの先行研究により、メフリンは膵がんにおける「がん抑制性CAF」のマーカーであり、BMPシグナルを増強する役割を有することが明らかになっている。

研究グループのDaniel Worthley博士らは、BMPシグナルを抑制する分子であるグレムリン1の消化管における機能の研究を専門としている。そこで、小林大貴大学院生がアデレード大学に派遣され、メフリン陽性およびグレムリン1陽性CAFが大腸がん進行に与える影響の研究が行われた。

CAFの機能的な多様性の本態、BMP発現量の違いによるものである可能性

病理組織検体を用いた遺伝子発現解析により、メフリンを多く発現する大腸がん患者は良好な予後を示し、グレムリン1を多く発現する大腸がん患者は悪い予後を示したという。

CAFの分化に重要な役割を果たすTGF-βシグナル活性の違いが、大腸がん周囲でのメフリン陽性CAFとグレムリン1陽性CAFの分化を決定していることが明らかになった。

また、グレムリン1の機能を抑制、あるいは、メフリンを増やすことで、BMPシグナルが増強され、大腸がんの増殖が抑えられることがわかったという。

これらの結果から、今まで明らかでなかった「がん促進性CAF」および「がん抑制性CAF」は、それぞれグレムリン1およびメフリンにより規定され、CAFの機能的な多様性の本態はBMP発現量の違いによるものである可能性が示唆された。

正常マウス肝臓細胞にメフリン分泌で、大腸がん肝転移進行を抑制

手術や薬剤が進歩した現在でも、がんの肝臓転移は、がんによる死亡の大きな原因の1つだ。続いて研究グループは、特殊なウイルスベクターを使って正常マウスの肝臓細胞にメフリンを分泌させることにより、大腸がん肝転移の進行が抑えられることを発見。今までのところ、遺伝性疾患の血友病においては、特殊なウイルスベクターを用いて正常肝臓細胞に不足している遺伝子を届けることで、患者の症状が改善することが、臨床試験で示されている。

同研究グループが知る限り、今回の研究は肝臓細胞に特異性の高いウイルスベクターを用いてがんの肝転移進行が抑制できる可能性があることを示した最初の研究成果であり、今後は肝転移をおこしやすい他の消化器系がんでも検証していく必要があるとしている。

間質細胞を介した「がん抑制性BMPシグナル」増強、治療標的として期待

約50年前に最初に同定されたBMPは、現在、消化管上皮の生理的状態の維持やがん細胞自体の増殖の調節に関わっていることは知られているが、がん間質のBMPシグナルがどのように調節されているかは明らかではなかった。今回の研究で、大腸がんにおける間質のBMPシグナル調節には、CAFが分泌するメフリンとグレムリン1が貢献していることが明らかとなった。

今まで理解が不十分であったCAFの機能的な多様性は、メフリンとグレムリン1の発現のバランスと、それによるBMPシグナルの制御で説明できる可能性があり、本研究は、今後のCAFの多様性の研究の発展に大きく寄与するものと推察される。

また、がんに対する新規治療法の開発において、間質細胞を介した「がん抑制性BMPシグナル」の増強は、今後の重要な治療標的となると考えられる、と研究グループは述べている。

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