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若年健常者、高齢健常者、パーキンソン病患者の姿勢制御メカニズムの違いを解明-阪大

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2020年11月24日 PM12:15

「立位姿勢の間欠制御仮説」を世界に先駆けて提案していた

大阪大学は11月19日、健常者の立位姿勢はスイッチド・ハイブリッドシステムと呼ばれる非線形制御(間欠制御)によって安定化されていること、および、高齢者やパーキンソン病患者における姿勢の不安定化は適切なスイッチが行われなくなることに起因することを、世界ではじめて明らかにしたと発表した。これは、同大大学院基礎工学研究科の鈴木康之講師、野村泰伸教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国物理学協会の非線形学際科学誌「Chaos」で、11月25日に公開予定。


画像はリリースより

これまでの仮説では、ヒト静止立位は単純な線形フィードバック制御で安定化されていると考えられてきた。この従来モデルでは、立位姿勢は頑強に漸近安定化されてしまう。そのため、実際のヒトが、静かに立位を維持している際の姿勢動揺(重心動揺)をモデルで再現するためには、特定の時間相関を有する非常に大きな内的ノイズ源を仮定する必要があった。また、ヒトの感覚フィードバックに存在する信号伝達時間遅れに起因する不安定化を回避するために、線形フィードバック制御器のゲインは限られた範囲内の大きな値にチューニングされる必要があった。大きなゲインは過大なエネルギー消費や関節の剛直化の要因となる。これらの性質は、ヒトの立位姿勢安定化戦略としての従来モデルの妥当性を疑わせる要因だった。

ヒトの立位姿勢は比較的大きな振幅で動揺している。これは立位姿勢時の身体の関節が柔軟性を有していること、および、それにも関わらず、さまざまな環境の変化に対してもヒトは頑健(ロバスト)に立位姿勢を維持できることを意味する。野村教授らの研究グループはこれまで、従来仮説で用いられてきた線形フィードバック制御の仮定自体が不自然であると考え、姿勢の柔軟性と頑健性を自然に達成できる仕組みとして、立位姿勢の間欠制御仮説を世界に先駆けて提案した。

間欠制御は非線形制御の1種で、立位姿勢に依存した適切なタイミングで、線形フィードバック制御が、一時的かつ間欠的に停止する(制御のスイッチが一時的かつ間欠的にオフになる)。通常、姿勢を安定化するためのフィードバック制御をオフにすれば、姿勢が不安定化すると考えられるが、実際はその逆のことが起こる。つまり、間欠的に制御をオフにした方が、姿勢の柔軟性を保ったまま、より頑健に姿勢を安定化できる。この点を、同研究グループは理論的に明らかにしてきた。

高齢者やパーキンソン病患者の姿勢不安定化は、適切なスイッチが行われなくなることに起因

今回研究グループは、こうした理論モデルの妥当性を、実際のヒトの立位姿勢動揺データに基づき、定量的に示した。さらに重要な点として、間欠制御仮説の検証を、若年健常者の姿勢動揺のみならず、高齢健常者および姿勢機能に障害のあるパーキンソン病患者の姿勢動揺の計測データも用いて実施した。

若年健常者の姿勢動揺は、間欠制御モデルによって統計的に最も良く再現(説明)されたのに対し、一部の高齢健常者や姿勢障害の重症度が高いパーキンソン病患者の姿勢動揺は、従来モデルによって統計的に最もよく再現されることが示された。従来モデルの姿勢制御様式は、例えば2足歩行ロボット等の姿勢の安定化にも用いられているが、高齢者や姿勢障害のある患者の立位姿勢は、ロボットの立位姿勢と同様に、剛直に安定化されていたことになる。一方、若年健常者の姿勢は、間欠制御によって、高いエネルギー効率で、柔軟性を保ちながら、しなやかに安定化されていることが明らかになった。

転倒リスクを個々人ごとに定量評価するパーソナライズドヘルスケア技術の開発に期待

姿勢や歩行、あるいは老人学の最新の研究によって、静止立位時の姿勢動揺の時間的変動パターン、なかでも制御システムの非線形性と関係があると予想される特徴的な性質と、日常生活中の転倒履歴に相関があることが明らかにされつつある。

今回の研究成果は、そのような特徴的な変動パターンを生成する神経制御メカニズムの一端を解明したものと言える。「今後、本研究の成果を応用することで、高齢者やパーキンソン病患者の日々の転倒リスクを、姿勢制御系のメカニズムの理解に基づいて、個々人ごとに定量評価する新技術(パーソナライズドヘルスケア技術)の開発に繋がることが期待される」と、研究グループは述べている。

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