医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 社会行動に関わる「ソーシャルセル」をマウスの大脳島皮質で発見-神戸大

社会行動に関わる「ソーシャルセル」をマウスの大脳島皮質で発見-神戸大

読了時間:約 3分22秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年09月24日 AM11:30

ヒトとヒトとの距離、社会的距離を隔てた交流、社会的相互作用はどのように決定されるのか?

神戸大学は9月23日、微小内視鏡を用いたCaイメージング法により、脳内島皮質に社会行動に関わる細胞「ソーシャルセル」を同定したと発表した。これは、同大大学院医学研究科の内匠 透教授(理化学研究所生命機能科学研究センター客員主管研究員)らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS Biology」電子版に掲載されている。


画像はリリースより

ヒトとヒトとの距離、社会的距離を隔てた交流、社会的相互作用はどのように決定されるのか。この社会(性)行動は複雑な行動様式で「感覚入力」「内的状態」「意思決定」からなる感覚処理から行動変容までの過程を含んでいる。つまり、視覚、嗅覚、聴覚、触覚などのマルチモーダルな感覚系を使って相手の情報を処理し、動機、覚醒、情動、報酬、記憶などの(社会性)内的状態に照らし合わせて、探索、交配、攻撃、養育、支配などの行動決定を行うところまでが一連の行動様式だ。これらに関わる脳領域として、扁桃体、視床下部、中脳、(前頭)皮質などが知られているが、その詳細な神経ネットワーク、特に細胞レベルでの理解は未だ不十分だ。

全脳での神経活動のマッピング方法としては、c-fosなどの最初期遺伝子の発現マッピングや機能的MRI(functional MRI、fMRI)が挙げられる。また、自由に行動する動物(マウス)の局所神経回路の計測としては、ファイバーフォトメトリー法や今回の研究で用いられた頭部に固定した微小蛍光顕微鏡を用いたCaイメージング法があり、さらに、頭部を固定したマウスでの2光子顕微鏡による観察もある。

知らないマウスに反応するソーシャル・オン細胞と、その逆の活動をするソーシャル・オフ細胞を同定

研究グループは今回、ホームケージにマウスを入れ、同じケージ内に知らない(初めて接触する)マウス、あるいは静的な物体を入れた時の行動を観察した。テストマウスは、物体に比べて知らないマウスに対しての接触時間、および回数が著しく増加し、鼻、体幹、肛門にそれぞれ接触するような社会的行動を示した。

続けて、アデノ随伴ウイルスベクターを用いてCaインジケーター(GCaMP)をマウスの大脳島皮質に導入し、無顆粒島皮質(AI)へGRINレンズを埋め込んだのちに、頭部に固定した微小蛍光顕微鏡を用いて、マウス自由行動下でのCaイメージングによる神経活動の記録を行った。9匹のマウスから取得した神経細胞(ニューロン)の細胞記録を解析したところ、社会的相互作用に相関して活動するソーシャル・オン(Social ON)細胞と、反対に社会的相互作用を示さないときに活動するソーシャル・オフ(Social OFF)細胞を同定した。全部で737個のニューロンのうち、ソーシャル・オン細胞が22.8%(168個)、ソーシャル・オフ細胞が1.4%(10個)だった。さらに、ソーシャル・オン細胞168個のうち、社会的相互作用があり、マウスが止まっているときに活動する細胞が60.1%、社会的相互作用があり動いているときに活動する細胞が7.1%だった。また、接触様式別では鼻と鼻の接触が35.7%、体幹との接触が20.2%、肛門との接触が5.4%だった。

次に別のタイプのテストとして、直線型の部屋を区切った装置(チャンバー)を用いたテストを行った。両端をそれぞれA、Bとし、何もしていない状態(control)ではA、Bともに空に、1回目はAに静的な物体、Bに知らないマウスを入れ、2回目はAにマウス、Bに物体を入れて、4分間探索行動をとらせた。それぞれの回についてテストマウスの社会的相互作用(接触)時間を調べたところ、controlではA、B間に差がなく、1回目はB、2回目はAと、マウスが入っているチャンバーとの接触時間が長くなった。さらに、AI内のニューロンを解析したところ、やはり 知らないマウスに反応するソーシャル・オン細胞と、また、逆の活動をするソーシャル・オフ細胞を同定した。それらはAかBかの位置とは関係なく、マウスに対して反応したという。

島皮質の構造や機能が変化している精神神経疾患モデル動物による解析にも期待

大脳皮質の中の島皮質は、解剖学的に社会行動をとるきっかけとなるマルチモーダル感覚を、「社会行動ネットワーク」と「辺縁報酬系」からなる「社会意思決定ネットワーク」に統合させる位置にある。今回の研究で、社会性行動の際に無顆粒島皮質の活動を単一細胞レベルで直接観察したことで、島皮質の社会性機能における細胞レベルでの知見が得られた。つまり、多数のソーシャル・オン細胞と少数のソーシャル・オフ細胞が逆の活動をしていることを見出した。今後、これらソーシャル・オン細胞、ソーシャル・オフ細胞の投射先の同定や活動操作により、回路レベルでの理解が進むことが期待される。

また、今回発見した無顆粒島皮質の神経の特徴は、島皮質がサリエンシーと呼ばれる感覚刺激によるボトムアップ性注意を誘引する特性に関与する可能性を示唆している。これは「社会意思決定ネットワーク」における「社会性」と「情動性」モジュールのインターフェースとして島皮質が働いているというこれまでの知見と合致する結果となっている。

さらに、島皮質の構造や機能が、統合失調症や自閉症といったさまざまな精神神経疾患で変化していることが知られており、今回の結果は、これら島皮質の社会性機能について細胞レベルでの知見を与えるものと言える。今後は、これらの疾患モデル動物での解析が期待される。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 0.5ミリ未満の早期乳がんの高精度テラヘルツイメージングに成功-阪大ほか
  • 新型コロナに対するマスクの防御効果、実際のウイルスを用いた実験で証明-東大医科研ほか
  • 新規画像強調機能LCI、WLIより上部消化管腫瘍性病変の発見に有用-東京医歯大ほか
  • 日本人がん患者由来PDXライブラリーを構築、がん医療推進に向けた基盤整備を達成-LSIメディエンスほか
  • 乳児期に抗NMDAR脳炎を発症したIRAK4欠損症を発見、世界初-広島大ほか